「本当のことを言えよい」
「だからー、私が言ったことは本当なんですって」
「信じられるわけねぇだろい」


もう、これじゃあらちがあかない。
溢れそうになる溜息をぐっと押し殺して、目の前の金髪長身刺青男の目を真っ直ぐに見やる。マルコ、と呼ばれていた彼はそんな私の視線を真正面から受け止めてなお、顰めた眉根を元には戻せない様子だった。

この問答を始めて、かれこれ20分は経過しただろうか。よくも飽きずに、と思われるかもしれないが、私が何を言おうにも信じてもらえないので仕方ないだろう。ヨルビアン大陸もカキン王国もヨークシンシティも、この男どもは知らないと言っていた。逆にここはグランドライン、という聞いたこともない海の話をされた為、私としてはここが異世界であることをいよいよ実感したのだが。ただ、物珍しそうに私を取り巻く男達と青い鳥改めマルコ氏はそうではないようで、物語の読みすぎだと人を基地外扱いするばかりである。

私の隣にいるサッチさんが時たま鳥さんに向かって、まあまあその辺にと声をかけてくれるのだが、その度にサッチお前は引っ込んでろと一蹴されるのが数回繰り返されていた。

たしかに、私だって急に人が降ってきて、異世界から来たんですなんて言われても信じる事はしないだろう、何か確たる証拠でもない限り。でも、私が異世界からやってきた事は確実だしなあ、まあ、ここがグリードアイランドのようなゲームの中でなければの話だけど。って、そうか!証拠だ!証拠があればいいのだ。

はたと思い付いて、射竦めるような殺気を隠しもない金髪の彼にアピールするように右手を挙げる。当然、すぐにそれに気付いた相手は、ピクリと片眉だけ吊り上げて、表情で何が言いたいのかと問うてきた。


「あのっ!」
「アァ?」
「証拠があれば、信じてくれますか?私が違う世界からきたって証拠!」
「…証拠だぁ?」


あからさまに疑わしいという目で、睨み付けてくる元鳥人間。段々腹が立ってきた。なんでこんなに疑われなきゃいけないの、と憤る気持ちをちらちら覗かせるように、口元にうっすらと笑みをたたえてみる。


「私が、この世界には多分ないだろう力をお見せします。それで信じてもらえると思うので」
「ハッ、本当にそんなこと出来んのかよい?」
「ふふ、がんばります」


目を細めて余裕があるかのような微笑みを投げつければ、鳥さんのこめかみに青筋が浮かぶのが見て取れた。ちょっと挑発しすぎたかなあ、なんて、そんなことを考えてももう遅い。周りの男達は「いいぞォ!」とか「ヤベェ面白ェ」とか勝手に盛り上がってきているし、今更引きさがれる様な空気でもなければ性格でもなかった。


「チッ…じゃあ見せてみろよい」


その代わり、嘘だったら覚悟しとけよい、と変に耳に残る語尾で言われた言葉に思わず生唾を飲み込む。ごくりと喉を通る感触と一緒に、なぜか気分が高揚してきて武者震いした。


近くに何か良いものはないか見回すと、甲板の淵に一升瓶が転がっているのが目に入る。それを指差して、力を見せるために使っても良いか尋ねると、どうぞお好きにとばかりに右手をひらひらとさせる鳥さん。今に目にもの見せてやる。本当に。

ありがとうございますと形だけのお礼を口にして、空き瓶の近くにいた屈強そうな男にそれを立ててもらう様にお願いする。他に何か使えるものはないかとポケットを弄ると、裸のまま入れたっきり忘れていたのだろう、明らかに洗濯されてしおしおになっている紙幣を見つけた。お金を使うのはなんだか勿体ない気がしたが、こちらの世界ではどうせ通貨も違うのだろうしそんな事を言っている場面でもないだろう。

甲板に集まる男、何名いるかは定かではないが10や20なんて数じゃない、200人以上いるのではないかという大勢の視線を痛いほど感じながら、ゆったりと表情を寛げた。


「えっと、説明しながらなんですけど、私のいた世界では念っていって、自分のオーラを攻撃だったり防御だったり色んな用途に使える人がいてですね、」


言いながら纏をしてオーラを体の周囲に留めてみるが、勿論ここにいる誰にも私の体から発されるオーラに気づく事はないようだった。ただ、鳥さんとサッチさん、あと端っこの方で見ている2人の男だけは、ピクリと身動ぎをしたような気がする。


「たとえば、私が今持ってるこのお札なんですけど。これ見ての通りシワシワでくしゃくしゃなんですよね。」


一番近い位置にいたサッチさんに、試しにお札に触ってもらう。普通の紙だな、という狙い通りの言葉をもらってから、空き瓶に向き直って紙幣を親指と人差し指の間に挟んで空き瓶に狙いを定めた。ゆっくり息を吸って、吐く。

全員の視線が私の右手に集中したのを見計らって、周を使用して紙幣にオーラを纏わせる。そのまま、ダーツ投げと同じ要領で瓶に向かってお札を投げれば、その2秒後には鋭く空を裂く音と共に空き瓶が真っ二つに割れていた。ゴトン、と中身のないガラスが甲板にぶつかる音とさっきまでふにゃふにゃだった紙幣が木造の船体に突き刺さる音とが、まるで昼である事を忘れさせるような静けさの中に広がった。


5秒ほど経っただろうか、どこからか誰かが、「すげえ…」と零したのを皮切りに、甲板はどっと沸いたような歓声に包まれた。


「こんな感じで、硬いものが切れたり岩を砕けたりしちゃいます。これが念の一種です」


その私の言葉は、果たして何人に届いたのだろう。
苦笑いでそう考えるほど、今この船の上は騒がしい。各々が、うおおだとかヤベェだとか魔法だとか好き勝手口にしている為、もう収集が付かなくなったという事は部外者の私でも一発でわかった。

この能力、つまり異世界から来たという証拠を一番見せたかった鳥人間さんを見やれば、彼もまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを見ていた。よし、畳みかけよう。少し悪魔のような気持ちが芽生えたことも手伝って、彼に3歩だけ近づいて、周りの喧騒も気にせずに言葉を紡ぐ。


「今のは念能力者なら大半の者が出来る、基礎みたいなものです。念は個々の能力なので、みんなそれぞれ違います。私の能力は、鳥を操ることが出来るものです」


相手のリアクションもろくに確認しないまま、間髪入れずに「バードブラザーズ」と呟いてオカリナに口付け音を奏でる。唇からオーラを受け取って光るオカリナを、サッチさんと鳥さんはまん丸お目目のまま食い入るように見つめていた。

先程は半径5km以内にこの鳥人間さん以外の鳥がいなかったせいで、効果が無かったが、今回は大丈夫だ。数分前に目の端で、鳥の群れがバサバサと通り過ぎるのを確認していたからである。私の確信を鳥達は裏切りもせず、先程見かけた群れがものすごいスピードで私の、つまり船の甲板の真上へと向かってくる。

そこの黒い子、おりておいで。
群れの中の一羽にそう声を掛けると、顔くらいの大きさの綺麗な鳥が私の肩へと降り立った。この世界の鳥って、みんな綺麗なのかな。そんな事を考えながら鳥の頭をやわやわ撫でる。その手のひらから鳥にオーラを与え、サッチさんの背丈くらいまで巨大化させると周りの男達の喧騒はさらに騒がしくなった。もやは、祭りのようなテンションで、甲板には騒ぎを聞きつけてかどんどん人が増えていく。


「こんな感じで、私の半径5km以内にいる鳥たちを操ることが出来ます。巨大化したり、後ろに乗せてもらったり、意思疎通することも出来ます。」

「…こいつァすげえ。なぁマルコ、これってやっぱり…」
「チッ……こんな能力見たことないねい。それに、悪魔の実の能力とも違う。…認めるしかないかねい。」


そう言って鳥人間さんは、両手を軽く上に挙げて謂わゆる参ったのポーズをとる。分かってくれたんだ!と嬉しい気持ちがむくむくと芽を出して、思わず巨大化させた鳥に頬擦りをした。


「分かってくれたんですね!鳥さん!」
「鳥じゃねェって言えば何回分かるんだよい!認めねぇ他ないだろ、こんなん見せられちゃあ」
「とりさっ…いや、マルコさん…!」


なんだ、やっぱり悪い人じゃないんだ。
理解してもらえるという事がこんなに嬉しい事だなんて、初めて気が付いた。嬉々とした気持ちを隠す事もせず、近くにいたサッチさんがいつのまにかニコニコしながらヒバリちゃ〜んと右手をひらひら振っていたのでばっちり爽快な音を立ててハイタッチする。それを皮切りに、周りの男達の地響きのような歓声が改めて響き渡った。


本当はあと3つ4つ、隠している能力があったが手の内を全部明け透けにするほど馬鹿でも平和ボケしているわけでもない。それに大体、良い女は秘密が多いって相場は決まってる。とりあえず、違う世界から来たって事は分かってもらえたし、変に戦闘に巻き込まれなくて良かったとホッと胸を撫で下ろした。


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