ふう、と息を吐くと肩に多大な付加をかけている大きめのボストンバックが揺れる。

この重さはきっと、たった今別れを告げてきた彼氏への私の愛の重さと相違ないのだろうと思った。荷物としては重いけれど、愛としては軽い。そんな質量。

もう一度深い溜め息を吐いてから、濃紺に染まる空の下でひとり帰路につく。男運ないなー、なんて。


私はこう見えて看護師だ。とは言っても成り立ての、つい先週国家試験に受かったばかりでまだ大学卒業すらしていない新米看護師だけれど。

でも就職先は決まっている。というか生まれた時から私の就職先なんて決まっているようなもので、院長である父と看護師長である母が切り盛りする総合病院、両親はそこしか私の就職先として認めてはくれなかった。全く自分の保身しか考えていない、嫌な大人。

ただ、私にだって願望はある。私は助産師になりたいのだ。
親に言えば確実に止められるであろう希望だった。けれど高校生の頃から憧れ続けた職業でもあった。だからこそ今まで大人しく親の喜ぶ「いい子」を粉して、親と兄の母校に入学までしたのだ。

看護師の資格を取ったのは助産師に成るのに必要だから良いとしても、それにしても周りの言いなりにしかなっていない人生だったと思う。けれどそれもこれも、全ては次の助産師の国家試験をこっそり受ける為。
実際、看護師より難しい助産師の国家資格を得るために人一倍勉強だってしてきたし、親には内緒で病院の産婦人科医にお願いしてお産に立ち会わせて貰ったりもした。資格を取る自信はある。

でも、でも。
本当に問題なのはそこではないのだ。

助産師になれたとしても、果たして私はその仕事をやらせてもらえるのだろうか。
一番はそれなのだ。答えなんて決まっているそんな問を心中で呟いた私の頬を、夜風が容赦なく叩いてゆく。

どこか、私が自由に生きる事が出来る場所に行けたらいいのに。

強く強く、弱虫の私には叶えられそうにもない願いを月に掛けたその瞬間、だったと思う。不意に私の視界が黒く染まった。何があったのだろうなんて考える暇もなく、意識は手から離れていく。否、私の意志など関係はなしに、離れていったのだ。






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