鈍い痛みで目が覚めた。頬が、肩が、ヒリヒリする。
それは私の霞んだ視界の中にいる五、六名の男性から暴力を受けている事が原因なのだと理解するのに、そう時間は掛からなかった。

私の意識が戻った事に一番に気付いたのは先程の男性で、彼は起きたみたいだぜ、なんて言いながら乱暴な仕草で私の髪を引っ張ってくる。痛い。
抵抗したいのに出来ないのは、ご丁寧にもきちんと拘束された後ろ手と足首の所為。それにもう一つ、意識を手放している間に大分痛めつけられたらしい私の身体が音にならない悲鳴を上げている所為だった。

ああ、私はシンさんの言うように本当に無力な女なのだ。ヤムライハちゃんのように魔法が使える訳でもなく、ジャーファルさんのように緊急時にも頭が回る訳でもない、ただの生身の人間。せめて護身術でも習っておけば良かった、なんて今更な事を考えていたら、私の右頬にまた重く鈍い感覚が走った。どうやら男性のうちの誰かに殴られたらしい。理由は分からないけれど。口の中が切れた。鉄の味がじんわりと口内に拡散される。痛い。

殴られた頬に手を当てようと思っても、いかんせん拘束されている為にそれが出来ない。もどかしい上に痛みもあるという最悪な状況に、囲むように立つ男共を精一杯睨みつける事しか叶わなかった。が、彼等を見詰めていると、ある事が判明した。衝撃的、というよりは納得できる事実だった。

私を気絶させた嘘吐き以外は全員知り合い、つまりあの船の乗組員であったのだ。

一瞬にして私が裏切り者と称された理由を、輪郭だけぼんやりと理解した。きっと彼等は船長さんや他のベテラン乗組員方が捕まった所為で、職をなくしてしまったのだろう。比較的若い顔ぶれだった為にそんな仮説を立てて、拘束された手足を小さな小屋みたいな空間の中で僅かに動かす。するとそれに反応するかのように、中央に仁王立ちする、よくシンさんと一緒に飲んでいた乗組員が憎々しげな視線と一緒に唾を飛ばしてきた。間一髪で私の赤く腫れているであろう頬を掠める。やだ、汚い、怖い。いたい。


「お前だけ上手くシンドバッドに取り入りやがって。乗せてもらってた分際で船長を売って自分は気に入られるたぁ、恥を知れクソアマ」


恐らく彼等は勘違いをしている。私が船長さん達をシンさんに密告していて、あまつさえ彼に媚びて自分だけ助かったなんて、お門違いも甚だしい事を考えている。
多分彼等は、私が船長さんに売り飛ばされそうであった事も知らないのだろう。直感的にそう分かるくらいに、彼等の目に宿る怒りは黒く赤く燃えていた。純粋に私を憎むその重厚的な色に、背中が粟立った。


「ま、って下さい。わた、うぐ」
「勝手に喋んじゃねえよ」
「っ…」


弁解しようとした私が馬鹿だったらしい、中央の彼に乱暴に顎を掴まれてしまった。骨を砕こうとしているのでは、と考えるくらいに強い力に自然と息が出来なくなってゆく。

痛い。何だかもう、全部痛い。拘束されて使えない手も足も、彼等の殴打に耐え切れなくて直ぐに痣を作る身体も、怖くて掠れた声しか出ない喉も転機が聞かない脳みそも、何もかもが痛くて悔しくて仕方無い。

助けて、誰か。そう頭の中で強く念じて目を閉じても、次の瞬間に小屋の扉が開いてヒーローがやってくるなんて奇跡は起こってくれない。それどころか、無理矢理床に押し倒されて、汚い男達に服を剥ぎ取りに掛かられてしまった。嫌だ、いやだいやだいやだ。これからされるであろう行為に対しての嫌悪感の塊が、私の口から悲鳴となって漏れ出る。それでも幾ら身を捩って抵抗しても、成人男性5人の力に適う筈など到底なかった。

うるせえ、喚くな。それ以上騒ぐと刺すぞ、と言って私に見えるように振られたのは鈍い銀色に光るナイフで、それがこいつらの汚らしい欲望のようにも、それとは正反対のジャーファルさんの綺麗で深い瞳の色にも思えて。どうしようもなく痛む心臓を抑えながら、それでも涙だけは流すまいとぐっと堪えながら強く強く唇を噛む。血が出るまで噛んだ。殴られた時よりは幾分か清々しい鉄の味が口の中に広がって、溶けてゆく。痛い。今から私はレイプされてしまうのだろうか。いやだ。本当に痛い、よ。

暑い筈の外気は何故かひんやりと冷たく、私の肌という肌に刺さった。気持ち悪い、汚い舌が私の肌を滑る。助けて、お願い。私に助けを求める資格なんて無い事は十分分かっていた。だってこれは完全に自業自得、それ以外の何物にもなり得ない。

けれど、狡くて弱い私はそれでも心臓から絞り出すかのように彼等を求めた。助けて、シンさん、ジャーファルさん。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -