「そんなありふれた感情論で私を縛らないで」
なんて、格好いい台詞を吐き捨てられたらどんなに良いだろう。

体だけ繋いでおけばそれで喜ぶと思っている馬鹿なひと…いや、妖か。
それでも彼にはきちんと人の営みが出来る体が備え付けられていて、私はそれに満足していて、人と妖の隔たりなんて気にならない程彼と過ごす時間が大好きで。

つまりはそう、すっかり惚れているんだと思う。そうでなくちゃ会って話してセックスしての繰り返しのこの世界に当に飽きがきている筈だもの。

そうだ、私は梵天に惚れているのだ。だから格好良くて尖った台詞の一つも彼に浴びせる事が出来ないのだ。


「ねぇ、ちょっと、聞いてる?」


顔を上げれば梵天のしかめ面が視界いっぱいに広がっていた。すっかり自分の世界に浸っていて気付かなかった。やだなあ。

ごめんごめんと二回繰り返して取り繕うみたいな笑顔を梵天の翡翠色の瞳に向ける。彼は明らかに私のべったり張り付いた偽物に気が付いた様子だったけれど、それでも何も言わずにただ大して深くもない溜め息だけを零した。そんな姿も絵になる、なんて思ってしまう私は末期な訳で。


「再三言うけどさ、お前の短所は」
「人の話を聞かないとこ、でしょ」
「分かってるなら直しなよ」


まあ簡単に直るモンじゃないけどね、続けてそう口にした梵天が、驚くくらいに自然な動作で私の肩を抱き寄せてきた。

事情後でまだ何も身に付けていない肌に梵天の仄かに熱を持った手の平が滑って、何だか心臓の底が落ち着かなくなるような感覚に襲われる。ムラムラと言えばぴったりだろうか。兎に角こう、恥ずかしいけれど反射的に疼いてしまった。

そしてどうやら梵天は鋭くもそんな私の微々たる変化にも気付いて下さったらしい。口角がにやりと孤を描いているのが見て取れた。ああ、やられた。


「全く、これだけで欲情するとはね」
「うるさいしてない」
「まあ確かに満たされるものではあるけれど」
「話聞かないのはどっちよ」
「…お互い様って事だろう」


けろりとした表情でそうのたまう梵天の胸板に、勢いだけで弱々しい頭突きを食らわせてやる。
結果鼻で笑われて少し頭にきたけど、それも梵天が再び私に跨ってきたから根本的に掻き消された。彼のきらきら光る金糸がさらりと私の胸あたりを掠める。引っ張ったら怒られるかな、なんて。


「やけに余裕じゃない?」
「は?」
「…なんかむかつく」
「何言ってんの梵」
「ま、すぐブッ飛ばせてあげるけどさ」


私の言葉尻を捉えるかのように発せられた彼の台詞に、全身が焼けるみたいに熱くなるのを感じた。感情論も、理性も何もどうでもよくなっていく。

私の肌を見透かすような、視姦するような、容赦ない梵天の視線が全身に刺さる。
ああ、疼く。嫌になるくらい期待してしまう。私は体だけでもいい、何でもいいのだと漸く気付いた。

梵天を愛してる。だからこそ私の体は彼との行為が大好きだと叫ぶのだ。
梵天の動作で私の中で何かが爆ぜて、どこか別次元に昇ってしまいそうなくらいの感覚。たまらない。

たった今私が心に思い浮かべたような行為を仄めかしているのだろうか、梵天の細い指が私の鎖骨あたりをついと、体内で生じたピンク色の電流と共に走った。

うわ、くる。
そう思っただけでもう既に、溶けそうだ。



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image song:「え?あぁ、そう。」
エロの範疇には入らないと信じてる



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