そもそも誘ったのは私だった。

でもそれは凄く誘って欲しそうな表情をしていた賢二の所為だった。当時中学二年生、その頃から既に遊び狂っていた賢二だったけれど、でも彼はまだ童貞だった。

きっとプライドの高い賢二の事だ、童貞なんかとうの昔に卒業していると見栄を張ってしまって、キスより先に持ち込めなかったのだろう。それはそれは容易く想像できる。
そしてそんな彼を誘ったのが私だったという訳だ。エッチしてみる?小首を傾げてそう聞いたら案外すんなりと肯定の意が返ってきた時には驚いた。


それからはもっぱら私が賢二の「興味」の実験台にされた。
どこがGスポットなのかとか、どうしたらそこを的確に突いて潮を吹かせる事が出来るのか、とか。計算付くでこられては文句は言えず、しかも別段嫌な気はしなかったしで私はただ彼の拙い手付きに身を委ねる事に徹した。

まあ今ではもう立派なエロ狐に成長して、ヤマケン君てテクニック凄いよねぇーなんて騒がれるまでになったみたいだけれど。
それは私のお陰なんだぞ。なんて、言ったら余計悲しくなりそうだから止めておこう。


「あーくそ、あの女」
「なに、『シズク』ちゃん?」
「携帯持ってないとか有り得ねぇだろ」
「え、うそだ」
「嘘じゃねーよほんと」


使えねえ、何に対してなのか分からない悪態を吐いてから、賢二は事情後の倦怠感漂うベッドの上にごろんと身を投げた。

今日何度目かの「シズク」ちゃんの話題。きっと私なんかよりずっと可愛い子なんだろう。だからこそ隣で座る私は、ただそれを黙って見詰めるだけしか出来ないのだ。

辛い。そりゃあつらい。だって私は賢二が好きで、私が賢二の一番近くにいた筈で。なのに何時の間にか追い抜かれていた。

私の何が魅力に欠けるのだろう。欠点は手の届く範囲ですら沢山見付かった。
だから余計悲しくなって、もう何もかもを吐き出すような大きな溜め息を吐いてから、腹癒せに賢二の金糸をわしゃわしゃと掻く。当然もの凄い顔で睨まれた。あー怖い。好きだ。


「俺が頭触られるの嫌いだって知っての嫌がらせか?」
「あ、そーなの知らなかった」
「白々しいなお前の嘘は」
「そうかな、普通じゃん?」


乱してやった賢二の髪を梳いて元通りにしながら、小首を傾げる。初めて賢二を誘った日みたいに、自分の中の熱をみて見ぬ振りして平静を装って。

彼は一瞬何か含むような表情垣間見せたものの、それは本当に一瞬だった。でも一瞬でも何でも、私の心に掠り傷を付けるには充分だった。

何故私の想いはいつも、うまく相手に伝わらないのだろう。噛み合わないのだろう。やり方を間違ってしまうのだろう。分からなかった。もう、何だか真っ暗だ。


「お前は変わらないな」
「私?そう?」
「何時まで経っても掴めねぇ」
「そんな事ないけど、賢二は変わったよね」
「そうか?」
「色んな女の子と関係を持つようになりました」
「そこかよ」


私、何時まで経っても掴めない女なのか。
彼の言葉を真に受けつつ、すっかり元に戻ったサラサラの金髪を一掬いしてみる。まっくらな今の私には、この金色がとても眩しく思えた。

きらきら、キラキラ私の前で輝くこの髪は、何時だって私じゃない方向に向かって進んでいく。だから私は目を背ける。一番狡い方法で生きる。難儀な話だ。笑っちゃう程に。

髪に飽いて、手持ち無沙汰な私の指は山口家の遺伝らしき純白の肌に向かった。嫌な顔をしないのは、「シズク」ちゃんの事を考えているからなのかな。そんな事を思っていたら賢二が不意に口を開いた。


「一度きりばっかだ」
「え?」
「同じ女と二度セックスはしない」
「は?何言ってんの?」


いきなりの話題にびっくりして、思わず白雪姫にも勝るかのような彼の頬を軽く抓ってしまった。頭が良い賢二の考えなんて、私には読めない。ただ蛇みたいに睨む目が、私の心の何かを擽る。


「同じ奴と何度もなんてしてられっか」
「すごい傲慢だね坊ちゃん」
「馬鹿にすんな」
「あれ、でも私は?私も一応女だけど」


女とすら思われていないのかと、落ちそうになった肩を救うのはやっぱり賢二の言葉で。それは暖かみも愛おしさも感じられるとは言い難い無機質なものだったけれど、それでも私の乾いた暗闇には容易に奥まで響いた。

「お前は特別だろ」




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -