今日は日食が見られるらしい。
世間は何週間も前から今日の金環日食の話題で笑顔になっていた。お陰で日食眼鏡は完売、どこのコンビニにもおもちゃ屋にも無いのだと、今朝何処かのニュース番組で騒いでいた気がする。

まあ、別にいいけれど。たとえ何十年振りと言っても、子供じゃあるまいしあまりその様子を観察したいとは思わなかった。

第一、直に見たら目を悪くするなんて何だか太陽が理不尽に思えてこないだろうか。日食見なきゃ死ぬわけでもないって言うのに。逆に黒いメガネ無しじゃ網膜がやられて目が死ぬっての。

なんて、思っていたのに。
なのに何故、コイツの手にこれが。


「遅ぇ。もうすぐ始まっちまいやすよ」
「ああー…こういう奴がいるから」
「ん、なんか言ったかィ?」
「いや、売り切れてんじゃなかったの、日食用の眼鏡って」
「コレは貰ったんでさァ」
「は、誰に」
「近所の鼻たれた餓鬼に」


俺に楯突いた報復にちと絞ってやったら献上してきたんでィ、なんてさらりと口にした沖田くんに私は逆に開いた口が塞がらなかった。明らかに貰ったとは言えない黒いレンズの付いたメガネが、彼の骨張った細い手にふらふらと下がっている。

近所の子供を締め上げた、か。
最悪だ、と思うと同時に沖田くんの事だから仕方無いとも思った。このイケメンに何を言ったって無駄、それは重々承知していたしもう弱々しく諫める気力すら湧いては来なかった。

ただ一度肩で大きく息を吐いてから、それから沖田くんのすぐ隣に並ぶ。上を向けば、直視出来ずとも太陽がまだ健在なのが簡単に伺えた。日食、日食ねえ。


「そんな見たいもの?」
「まあ一生に一度あるかないかだしな、そりゃ見たいだろィ」
「ふーん、」
「っつーのが世間の話でさァ」
「え、沖田くんは違うの?」


何だか含みのある物言いに思わず小首を傾げる。すると沖田くんは年に似合わない妖艶な笑みを浮かべて、鈍いっつーのは酷だねィ、なんて訳の分からない台詞を飛ばしてきた。

あんなにも楽しそうにメガネを持って私を待っていたから、てっきり日食を凄く楽しみにしているんだと勘違いしていた。どうやら彼の本当の目的は違うところにあるらしい。

それが何なのか、気付いていないと言ったら嘘になる。私もそこまで鈍くはないし、人並みに察知能力はあるし。

ただ、たださ。どうせなら聞きたい訳だ、沖田くんが私にどんな愛言葉を聞かせてくれるのか。ちょっと狡いかな。でもまあ、いいじゃないか。

わざとらしく分からないフリをして沖田くんを仰ぎ見る。彼は私の騙そうという意気が全く感じられないであろう演技に気付いたのか、それとも本当に今の私の表情なんて気にしてはいないのか。

ドエスの沖田くんの事だ、きっと前者だろうけれど、兎に角彼はその私よりつぶらで大きい瞳を少しだけ細めて私を見据えてきた。空がだんだん暗くなっていく。光がだんだん少なくなっていく。


「俺ァ百年に一度の太陽より、アンタを見てたいんでさァ」




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金環日食って騒いでるからさ、最近。学パロでも普通にでもいける描写で纏めてみました的な。


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