「馬鹿ね、賢二」

お前に言われたかねぇよ、とサラサラの金髪を靡かせて彼は言い返してきた。

賢二のプライドが凄く強い事は、従兄弟という立場上骨身に染みて理解しているつもりだ。そしてまた、彼が私を色恋の対象としては見ていない事も。賢二の無機質な表情がそれを物語っているし、第一彼が私を意識しているならばこんな風に自然に私を自室には入れないだろうし。


「女の子一人振り向かせられないなんて、馬鹿よ」
「うるせー相手が悪ぃんだよ」
「まーた他人の所為にして」
「事実だからしゃーねーだろ」


大きなベッドに腰掛けたまま、ぷいと顔を背ける私の大好きな人。でも彼には私ではない大好きな想い人がいる。

だから、だから私は賢二の性欲対象にはなれても、恋愛対象にはなり得ないのだ。悲しいけどそれが現実。そして私がもがきもせずにそれに納得して、大人しく彼の性欲処理機になっているのも現実。ぜんぶ、破り捨てたくなる現実なのだ。

それでも私は彼が好きで好きで仕方ない。性欲処理という名目に甘んじてしまう程だからかなりだと思う。

でも私は狡い。狡くて汚い人間だ。
なんせ賢二の恋路が上手くいかなくて内心で喜んでいる。このまま一生上手くいかず、私のところに逃げ込み続ければいいと思ってしまうのだから。本当に、自分に嫌気がさす。

けれど弱い私だからこそ、だ。今日もまた気持ちとは裏腹に私の体は賢二を仄かに青みがかったシーツへと押し倒し、その上に跨っていた。当然私達は向き合い、視線も絡まる。
ほら、賢二だって満更でもなさそうな顔。これが私に無駄な期待を抱かせると、彼は気付いていないのだろうか。


「んだよ」
「何って、やらないの?」
「ヤりてーのか」
「うーん、びみょ」
「微妙な顔してねぇだろ」


言うが早いか、賢二は気怠げに上体を起こして私の唇に彼の血色の良いそれを重ねてきた。私から誘っておいて拒否するなんて馬鹿な気は毛頭ない訳で、そのまま好きにさせておけば彼の舌がゆるゆると口内に侵入してくる。

歯列をなぞり、時たま私の舌を吸い上げる不規則な動きをするそれに私は情け無くもぴくりぴくりと反応してしまう。呆気なく声が漏れてしまった。直ぐに何時もの事だから、仕方無いと割り切る。

でも好きな人がいる賢二に対して、私は少しだけ罪悪感みたいな刺々しい感情を覚えた。まあ、だからといってきちんと鼓動を刻む綺麗な胸板を押し退けたりはしないけれど。
というか寧ろ、欲に負けて私の唇を余裕の表情で啄む賢二の夏服のボタンを一つ、プツンと外してしまった。

全く私は馬鹿だ。
それに気付いた賢二が悦に浸った笑みで私の髪を一掬いして、色気すら含む放漫な動作でキスを落としてくる姿に不覚にも心臓が高鳴ってしまう、私は。


「けん、じ」
「あ?」
「告白、出来るといいね」
「…ハッ、俺から告る訳ねーだろ」


見栄張らないでさ、本心の余事象的な部分から生まれた台詞は外気に触れる前に快楽からくる嬌声の所為で消えてしまった。

賢二が私の好きなところを苛め倒す。口付ける。私に入ってくる。
恋人みたいな行為なのに、入れる時だって私は彼の背中に手を回してその肌の温度を、肉や骨の厚さを感じているのに。

それにも関わらず、何故か満たされなかった。

もっともっと、全然足りないよ。
私の中の疼きが、厭らしい欲望になって賢二に襲い掛かっていく。それを無表情で、否、私を見下したような表情で受け入れる賢二に、一体私は何を求めているんだろう。分からない。

でもこのままじゃいけないって事は分かる。もっとも、分かっていても実行する気はさらさらないけど。

賢二、と律動の合間に掠れた声を上げたら、彼は色っぽくて悲しげな瞳で私の名前を口にした。ああやっぱり私から切るなんて、無理だ。



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もうヤマケンしか見えない
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