もういいよ。すれ違いの日々には疲れたの。もう軽い気持ちで浮気されて傷付くのにはもっと疲れたの。私を大切だって言うのに、その大切の矛先を私以外にも向けるじゃない。
しかも私なんかよりお仕事の方が百倍は大事なんでしょ。そうだよね、私と金造は普通クラスが同じだっただけの同級生で、偶然と偶然が重なって付き合い始めただけだもん。

え、違う?何が?
今更いわないでよ、好きとか。だって卒業したら金造はさっさと京都に行っちゃうし、たまに遊びに行けば必ずって言っていいほど女の子がいるし。これでお前だけが大切だって言われるのって酷なんだよ。

あはは、謝んないでよ。言ったじゃん、もういいって。私分かったんだよね、金造と違って私はアンタじゃないと駄目なんだって。うん、なんか遊んでみたんだ。金造を真似て。そんな怒んないでよ、誰ともどうにもなってないから。何かさ、駄目だったんだ。いざとなると金造の馬鹿みたいな金髪が頭の中を支配しちゃってさ、ほんと私馬鹿だよね。

え、なんでこのタイミングで謝るの?
私はもう良いんだってば。分かったの、このまま生きてても私たちは擦れ違うだけだって。…違うって言ったって、金造任務以外で一度も私に会いにきてくれた事ないじゃん。いつも私ばっか。だから謝んなくていいってば、私の気持ちは変わらないし。怒ってないよ?

うん、だからさ、さよなら。



小さなモバイルを耳から離して液晶画面を見る。五分二五秒、秒数は今も刻々と動いているけれど。まだ回線の向こうで金造が何かを必死に訴えているのが聞こえていたのは承知で、もう取り合う気も起きずに電話を切った。ツーツー、と人気のないマンションの屋上に木霊する。

学生時代、私と金造がよく寝転んでいた場所。小さな思い出の場所。死に場所にここを選ぶなんて、やっぱり私は金造に未練しかないんだなあ。なんて溜め息混じりの思考で考える。

通話を切る直前の金造は焦っていた。まるで私が今から死のうとしている事に気付いているみたいに。

馬鹿ね、もう遅いのに。
自己満足でごめんなさい。浮気に過敏になって、ツンケンして、私は本当に最悪な彼女だったよね。本当にごめんなさい。でも死なせてね、もう辛いのは御免なの。この気持ちは、揺らがない。

ガチャンと不意に鉄の扉の開く音がした。びくんと肩が揺れるのは当たり前だろう。


「馬鹿!早まんなよ!」


なんでここにいるの。京都に居たんじゃないの。なんでここだって分かっちゃったの。好きなんだと叫ぶ金造の金髪に目がやられたらしい、涙が次から次へと落ちてきた。
ああなんでアンタはいつも、ヒーローみたいにタイミングが良いんだ。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -