「うーあー…さいあく」


文字通り「青臭い」香りが鼻腔を擽る草原にごろりと寝転がったままで、小さく呟いた。首の裏に手を当てながら重い両の瞼をどうにか持ち上げる。空は青いから、どうやらまだ夕方にはなっていないようだ。
まさか寝てしまうとは。この私としたことが何たる不覚、と少し格好付けた台詞を頭の中で反響させてからゆっくりと上半身を起こした。

今日は裏裏裏山あたりまで鍛錬にでも行くかと思っていたのに、残念。まあでも、これは私の所為じゃないし。どちらかと言うと罪なのはのんびり何処までも広がって私に眠気を催した青空だしな、なんて。責任転嫁してる場合でもないか。


「ハチ、ハチー、起きてー」
「んぅ…」
「おきろ竹谷八左ヱ門ー、はーちー!」


そう口にして、隣で当たり前のように惰眠を貪っていたハチの体をゆさゆさと左右に揺らす。灰がかった髪もふわふわ、というよりはボサボサと揺れ、それは緑色の背景に何故かとても綺麗に映った。けれど、それを素直に声に出すのは何だか癪な気がするし、何よりそんな事いきなり口にしてもお前は何を言っているんだと聞き返されて終わりだろうから、改めてハチの肩を叩いた。

三回程強めに叩いた時、漸く掠れた「わかった…起きるから揺するな」という返答が返ってきた。一応その言葉を信じてスッと手を引っ込めてやる。

コイツのことだ、寝ぼけてまた直ぐに眠りに落ちるんじゃなかろうか。
幸いにしてそんな考えは杞憂に終わり、寝ぼけ眼ではあるもののハチはのそりと体を起こした。それからのんびりと大きな欠伸を一つだけ宙に浮かべて、何故か私の顔を見てフッと笑う。ハチらしからぬ笑顔にドクンと鼓動が落ちた。

…じゃ、なくて。なんでそんな急に大人びた笑みで笑われなくちゃいけないんだ。


「なによハチ」
「いや、別にー」
「何よ言ってよ」
「んー、お前さ、寝てただろ」
「は?」


確かに寝てたけど、何か問題が?

予期していなかった質問に少々掠れた声音で答える。するとハチは太い眉尻をついと下げて、声を出して笑った。何故かは分からない。分からないけれど、どうした事か私はそんな理由よりもハチの肌から染み入るような声が気になって仕方なかった。

なんなんだろうか、今日は。もしかしたらあまりにも空が青いから、私の脳みそも真っ青に染められてしまったのかもしれない。


「ハハ、寝癖付いてる」
「え」
「ぼさぼさだな、おまえ」
「は、ハチには言われたくない…!」
「じゃ、お揃いだな」


へにゃりと、今さっきとは違っていつもの見慣れた笑みを携えたハチが、おもむろに私の髪へと手を伸ばしてくる。何時もならどうって事ないのに、叩かれるかな嫌だなあとしか思わないのに、なのに今は心臓が臓器を押し潰してしまいそうだと錯覚するくらいにバクバク音を立てていた。熱い。あつい。何なのだ。

幾ら考えても上手く思考が纏まらない。鬱陶しい、私はこんなにも面倒な性格だったのか。

鼓動の音なんて聞こえる訳はないのに、それでも左胸を押さえずにはいられなかった。ハチ、とその呼び慣れた筈の二文字を紡ぐ口蓋が震える。丁度ハチの手のひらが、私の髪に触れた時だった。


「うん、お揃い、だね」


これが私の精一杯だなんて悔しいけれど。でも、目の前のハチがまた嬉しそうに微笑んだからいいかなあ、なんて。



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ひいいいライアちゃんクソ品質でごめんねRTありがとでした…!
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