突然ですが、彼氏が豆腐と結婚しました。

いや、流石にこれは少し語弊があるかもしれない。正しくは、彼氏が豆腐と結婚しようと奮闘してます、というところか。兎に角、彼、久々知兵助はどうやら彼女である私を無視して豆腐と婚約を結ぶ気でいるようなのだ。

と言うのも先日、風呂上りの際に偶然、リビングで彼が愛用の豆腐クッションにプロポーズをしている場面を目撃してしまったのだ。

耳まで真っ赤に染めて、震える声で結婚しないかと問うて、それから真っ白くて正方形のクッションをぎゅうっと抱き締めていた兵助君の姿。うん。とてもこの世のものとは思えない程に可愛かった。豆腐にプロポーズ、という展開に対しての衝撃よりもまず、彼の可愛らしさに私はやられた。

が、よくよく冷静になって考えてみると、これは大変な展開ではないか、と思えてきた。だって、もし兵助君が豆腐と結婚したなら、私はただの恋敵、もとい横恋慕のじゃじゃ馬、という存在になってしまうのだから。まずい、とてもまずい。そう気付いたのが今朝の出来事である。


そして今、私は決して広いとは言えない私の部屋の中、兵助君とローテーブルを挟んで向かい合っている。勿論、豆腐との事を問い正す為である。けれど彼はどうしたことか、私からの唐突な呼び出しにも動じず、真正面でほんのりと頬を染めているではないか。全く意図が読めない。というかやっぱり可愛いなもう。

思わず抱き締めてしまいそうになる衝動に耐えながら、ゆっくりと一つ、深呼吸をする。兵助君は、やはりまだ少し顔を赤らめて、その特徴的な眉を僅かに寄せているだけだった。


「兵助君、あのね、話があるの」
「き、奇遇だな。俺も丁度話したい事があったのだ。」
「え、…う、…あ、そう、なんだ」


どうしよう、別れ話のフラグ完全に立ってしまいました。今、豆腐に告白した後で、丁度、話したい、こと!

目の前が真っ暗になった。もう嫌だ、何も喋りたくないし聞きたくない。口を開いたら泣いてしまう。嫌だ。ああ、私兵助君のこと、こんなに好きだったんだ。知らなかった。ごめんね兵助君、わたし君のこと舐めてたみたい。ごめんね。

突如としてやってきた激しい心臓の痛みに耐える私を馬鹿にするみたいに、兵助君が一度大きく溜息を吐いた。あ、やばい。そう思った時には時既に遅し、というやつで、私の視界はぼんやりと歪み始める。自分はこんなにかも簡単に泣くような人間だったのか、と、一杯一杯に張られているだろう涙の膜を兵助君に隠す為に俯きながらぼんやりと考えた。


「あのな、あまりにも突然だから驚くかもしれないけど、」
「…う、ん」
「出来れば、受け入れて欲しいんだ」


むり。受け入れられる訳がないでしょ。とは、言えなかった。
その代わりに、声は出さずにゆっくりと二度瞬きをして、兵助君を見詰める。

大好きな彼が放つ言葉なんだ、ちゃんと受け入れるべきだ。例え彼が豆腐と結婚する為に私を捨てようとも、我慢して身を引かなきゃ、兵助君の幸せを一番に考えてあげなきゃ。

自分と豆腐とをこんなにも真剣に比較して嘆いている事に悲しくなってこなかったと言えば大きな嘘になるけれど、それでもどうしたって不安なものは不安で、ぐっと強く拳を握る。受け入れろ受け入れろ受け入れろ受け入れるんだ自分。

兵助君は豆腐が好きなんだ、豆腐といるのが幸せなんだ、豆腐クッションを抱き締めるのが幸せなんだ耐えろ耐えろ耐えろ。


「結婚しないか」
「え、豆腐と?」
「は?」
「え?」
「俺と結婚しないか」


頭の中が真っ白になってゆく。それこそ豆腐の色のように、私の中の色々な感情が一瞬にして塗り替えられてゆくのは、何だか奇妙な心地だった。というか、それより、え、うそ、待って。兵助君いまなんて言った?結婚しようとか言わなかった?私に、言わなかった?


「え、う、へいすけ、くん」
「駄目か?」
「だ、めじゃなくて、え、豆腐…は」
「は?豆腐よりお前と結婚したいのだけれど」
「え、う、え」
「…だめ、なのか?」


そう言って、私を見る兵助君の頬は何時ぞや盗み見た時と同じように綺麗なピンク色に染まっていて。そこで漸く気付いたのだ。彼は豆腐クッションで「予習」していたのだという事に。というか、逆に何故気付かなかったのか。気が動転し過ぎたんだろうな、たぶん、いや確実に。

ドクドク、と直ぐにはやくなってゆく鼓動がとても煩わしい。しどろもどろになりながらもどうにかコクリと首を縦に振ると、兵助君の暖かい腕が勢い良く私の身体に巻き付いてきた。途端に嬉しくなって、私も大袈裟過ぎるモーションでその細身なくせに筋肉質な体を抱き締め返す。ああ、もう今すぐ地球上の皆さんに向けて叫びたい。

久々知兵助は、世界一照れ屋で世界一可愛い私の旦那さんなんです!



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はん○り豆腐のクッションを久々知が抱き締めてたら萌えるよな、って話。宇治ちゃんRTありがとでしたー!
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