「ジャーファルさんでも、胸、見ちゃうもんですか?」
「は?」
「ヤムの胸とかヤムの胸とかヤムの胸とか」
「はい?」


突然何を言い出すのかと眉間にシワを寄せると、彼女は口ごもりながらも「シャルルカンが言ってたんです男はまず女の双丘を見るもんだって」と少し寂しそうに返答してきた。その表情に何とも言えないものがあって思わず押し黙ってしまう。シャルルカンは後で締め上げよう。

私が無反応である事を肯定と受け取ってしまったのか、彼女はしゅんと肩を落として俯いてしまった。ああ、違うのに。なんて愛らしいんだろう。


「それはシャルルカンだけですよ」
「でもヤム胸おっきいし」
「私は気にしません。というか何でそんなにヤムライハを意識するのですか?ピスティじゃあるまいし」


それに貴方も結構胸あるじゃないですか、は寸でのところで飲み込んだ。男に理想を抱いているこんな愛らしい女性に下劣な台詞なんて言うものではない。あの剣術バカでもあるまいし。
彼女の視線の高さに合わせる為に少しだけ屈むと、恥ずかしそうに目を泳がせる彼女との距離がぐんと縮まる。セクハラではない。これは断じて。


「なんとなく、」
「なんとなく?」
「…ジャーファルさんもムネムネ言ってたら、やだなあって」
「ムネムネって貴方…」


柔らかそうな耳朶だけ真っ赤に染めた八も年の離れた少女が、隠しきれない羞恥心をチラつかせながらも私をひたすらに見詰めてくる。色んな意味で心が折れそうだ。更に追い討ちを掛けるようにして私の官服の右袖をギュッと握ってくるのだから溜まったもんじゃない。健気も時には凶器になり得るのだ、と国の財政には全く関係のなさそうな知識を脳が勝手に吸収した。


「男はねぇ、胸だけじゃないんです」
「へ?」
「胸の有無に関わらず、その人自体がどうしても愛おしくなってしまうものなのですよ」


教え諭すようにそう口にすると、彼女は私がそんな事を言うとは思っていなかったのだろう、ゆっくり時間をかけて二度程瞬きをした後に小さくコクリと頷いた。どんな了解の意が込められているのかは分からなかったけれど。

それでも彼女が私の言葉に納得し、また満足した事だけは分かった。さっきまでとは打って変わってはにかむような笑みを浮かべているからだ。


「ありがとう、ジャーファルさん」
「いえ、このくらい構いませんよ」
「男の人もおんなじなんですね」
「え?」
「その人自体が愛おしくなる、って」


嬉しそうな表情の彼女の前髪を、風がふわりと攫ってゆく。そうか、これが本当の愛しいであるのか。自分で説明したクセに逆に気付かされてしまった私は政務官としても男としてもまだまだだ。ただ、彼女が笑っているから、胸もシャルルカンもヤムライハも何だかどうでも良くなっていく気がした。この気持ちをどうすべきかは、何とも難しい問題である。が、今は浮かれている場合ではない。

取り敢えずそう、仕事を再開しなくては。



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なんだこれ(^ω^;)



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