私はいつも夢の中で、燐を殺す。

来る日も来る日も睡魔に取り込まれた中の私は燐の首を絞めて、酸素が無くなって息絶えるまで、何度だって。目が覚めてからはゾッと背筋を震わせるような体験であるのに、不思議と夢の中では悲しいとも自分が最悪だとも思った事はなかった。寧ろある種の清々しさみたいなものまで感じているような気もする。私はおかしいのだろうか。


首を絞めているとき、燐は必ず苦しそうに小さく口を開ける。酸素、欲しい?毎日の日課ようにそう問い掛ければ間髪入れずにこくりと頷く。くるしいんだ。
そんな燐を見、私はいつも生という曖昧なものを実感するのだ。今、いま燐は生きているのか。そう考えるといつもゾクゾクする。勿論そんな狂気じみた思考回路が働くのは夢の中でだけだけれど。

気管を締め付けられる所為で垂れてくる涎は私がペロリと舐めてあげるのが常だ。どうやら私はその時だけ無意識的に腕の力が緩むらしい、燐はよく自分の口から涎が出きたのを感じとると、直ぐに私の見て目で何かを訴えるようにしてくる。滲む涙や朦朧とする意識に視界もぼやけるだろうに、それでも私をひたと見据えて、だ。
もしかしたらあれは燐なりの意思表示だったのかもしれない、と、私は彼の死体の側で考える。

燐は不器用なのだ。不器用であるが故に色んな場所で数々の人間に誤解を植え付ける。そして私も数多のうちの一人に過ぎない。

お前は特別だからな、といつか彼に言われた言葉が脳内で反響する。もう大分私の中で美化され使い倒されてきたこの台詞に実は他意は無いんだということを、気付かされたのは何時だったろうか。確かその頃から、私は眠る度に夢を見るようになったのだ。


一度小さく溜め息を吐く。いま現在私の向かい側で難しい顔をして宿題と格闘する燐を一瞥してから、あたかも読みふけっているように見せ掛る為の分厚いファンタジーに目を落とした。

今は、殺したいなんて思わない。当たり前かもしれないけれど、当たり前でない事。なんせ最近私は目蓋を下ろしてもいないのに、不意に燐を殺したい、そう考える時があるのだ。
殺人衝動と言うに相応しいこの感情は、きっと私の中では綺麗な白色をしているに違いない。嫉妬やら、狂気混じりの愛情やら、そんな下世話な赤色物ではないのは確かだ。私はいつもどこか淡白な、それでいてどこまでも濃い感情に突き動かされている。


「なあ、まだ読み終わんねぇの?」


不意に燐が口を開いた。きっと単純な彼の事だ、私がどうしたら読む気力が起こるのかすら分からないような皮表紙の本を一心不乱に読んでいると勘違いしてくれているんだろう。情けなく緩む口角を引き締めて顔を上げる。燐の目をみたら、何だか無性に質問とは違う言葉が喉元まで迫り上がってきた。


「燐、好き」


殺したい程ね、と頭の中でだけ付け足してから、革張りの書物を出来るだけ静かに閉じる。何度目だろうか、こうやって我慢が効かずに燐に想いを告げてしまう間違いを犯すのは。もう慣れてしまったから頬も熱くはならなかった。私は女の子としておかしいのかもしれない。

燐はと言えば、こちらももう慣れたのか照れもしないでただ私の目をそのパッチリ開いた瞳で捉えてきた。分かってる、答えなんて分かりきってるのに何故か胸が高鳴る。小さな期待が波になって寄せてくる。


「ごめん、俺は」
「うん、分かってるって」


またもや砕けた想いを自分の心の奥に戻しながら、こっちこそ何度も断らせてごめんね、そう口にした。すると燐はぶんぶんと頭を振ってから、とても申し訳なさそうな表情で押し黙る。分かってるって言ったのに。燐は一生私を、というよりは女の子を愛さない、って。

それでも燐を好きでいるのは、殺してしまう夢まで見るのは、きっと私が負けず嫌いだからなのだ。

男の人しか愛せない燐に、どうしても勝ちたいと、自分を好きにさせたいと思ってしまう。子供みたいな私を許して欲しいとは言わないけれど、でもせめて、そっとしておいてほしい。我侭もいつかはなおしたい。

それでも、たぶん。私は今日も彼の首を締める夢を見るのだろう。
燐を気にして小さな溜め息の代わりに曖昧な笑みを漏らしてから、もう終わりよと本の中ほどのページを適当に開いた。




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燐ホモ設定。ごめんゆるして。他意はない


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