「吉田ー!」


すうっと、胃にたくさん空気を溜めてそれから一気に吐き出す。自分の声が校庭の上にのさばる青空に吸収されてゆくのがなんとも心地いい。

なんて思っていたら、ものの数秒で私の元へと長身細身の十番が小走りで前髪を気にしながら近付いてきた。何時にもましてキラキラオーラを振りまいていらっしゃいますこと。


「全く、ボクの事はジーノって呼んでってば」
「だって苗字は吉田じゃない」
「んーん、ボクはジーノ、または王子」


ウインクを飛ばす勢い(もしかしたら本当にウインクしてたかもしれない)でフェンス越しの私に笑顔を投げかけてくる吉田、もといジーノに半ば呆れ掠れた笑みを返す。
彼の場合、汗臭く思える筈の練習着姿も何故か様になって見えるのだから何だか悔しい。まるで汗が宝石みたい、なんて流石にそれは過大評価だろうか。


「でも練習に来た甲斐があったよ」
「ん?」
「ハニーが来てくれるなんてね」
「ハニーて誰それ」
「キミに決まってるじゃないか」


は?と私から当然のように零れ落ちた擬音をまたもや満面の笑みで掬い取るのは、ETUの気紛れな10番。

あたかも異国の王子か何かでもあるかのように、あるいは本人は真面目にそう勘違いしているのかもしれないけれど、兎に角そんな雰囲気とごくごく自然な動作で、迂闊なことに手持ち無沙汰であった左手を捉えられてしまった。私の知らない内にジーノの骨張った腕フェンスを潜り抜けていたらしい。なんでここのフェンスは目が粗いの使えないな!

それにしてもやばい。なんか左手首に熱があつまってくる。相手はあの我が儘エセ王子なのに。こんなのおかしい筈、なのに。


「ちょ、離してよ」
「フフ、満更でもないクセに」
「そんな事ない嫌!」
「嘘吐くとキスするよハニー」
「いい加減にしろルイジ吉田ァ!」


他の練習を見に来たらしいETUサポ、それに遠巻きに面白そうに眺めてくる他の選手達の目も気にせずに、力の限りにそんな声を上げる。ただ筋金入りのナルシスト吉田にそんな私の叫びが通ずる事は到底なく、そんなにキスされたいのかい、なんて笑えない台詞を寄越された。誰か止めてよ。

願いも虚しく、有言実行と言わんばかりに吉田の顔が近付いてくる。ただフェンスがあったのが幸いと言ったところか。ありがとうフェンス、使えないなんて思ってごめんなさいフェンス。


「中においでハニー」
「アンタ練習中でしょ」
「ハハハ、大丈夫だよ」
「おぅふ無傷か…」


見え見えの嘘に思わず溜め息が零れた。なんで私ってこう、男運がないんだろう。いや確かにイケメンではあるのだけど。


「あ、言っておくけどボク、束縛するタイプだけど束縛されるのは御免だからね」


そんな囁きを耳元で繰り出してくるこの人は、多分本気だ。何故か熱くなってしまった耳朶を押さえつつ、私は束縛されたいタイプだけど、なんて無意識に口走っていた私には、多分最初から勝ち目なんてなかったのだ。




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5時→9時のアーサー様に萌えて外国人を脳内検索したら何故かルイジ吉田さんがしゃしゃり出てきました。早くくっつけアーサー様と百恵え!
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