「ねえ、なんで私のこと苗字で呼ぶの?」


ついに聞いてやりました。青峰の彼女になって早2か月、ずっとずっと思っていた事を。

勿論彼に大真面目な返答は期待してなかった。だって学校も部活もサボりたい時にサボる人間だから。でも!それでも一応答えはくれるだろうと、勇気を出して聞いたのだ。

なのに、なのにこの黒ナスと言ったら。


「ハ?んなの知んねーよ」


それだけ。たったそれだけ。
有り得ない、を通り越してムカつく、を通り越して悲しくなる。この人は私がなんの心配も疑いもなしにこんな質問をしたと思っているのだろうか。


「うわ、なにそれ」
「んだよ何で怒ってんだよ」
「だって桃井さんは"さつき"じゃん!」
「そりゃさつきはさつきだしな」
「…あー、駄目だこりゃ」


ハア、と大きく溜め息を吐いて、太陽の日差しを一身に受け止める屋上のタイルにへたり込む。私に釣られるようにして青峰もその場にしゃがみ込んできたけれど、最早それを一々喜ぶ気力も湧いてこなかった。


「オレの何が駄目なんだよ」
「私だってさー、気にすんの」
「は?」
「青峰が他の子は名前で呼んで彼女の私は苗字でー、とか」

嫉妬なんて恥ずかしいけどさ。

最後にそう付け加えてちらりと正面の青峰を伺いみる。こういう時だけ目線を同じ高さにしておくとことか、本当に絶妙だと思う。まあ、絶妙だからこそ遊んでる感が否めなくなって浮気の心配だって尽きないんだけれども。

覗き込んで見た私の愛する遊び人の表情は、意味不明、そんな四文字を当てはめるにピッタリだった。こんな面倒くさい女は嫌だってか。露骨過ぎてこっちが嫌になる。
ただ私の女らしい憶測とは違って、青峰の思考はもっと単純なものだった。


「オマエだって俺のこと青峰って苗字呼びだろ」


彼はそこが気になっただけ、らしい。
精神的に何だかガクリときて、ああそうねと生返事を返す。

ああそうですよね、ほんと。
彼は天才なのだ。考えずにバスケをして、直感に任せて点を入れてチームに勝利をもたらしている。だからこんな単純にしか考えてくれない、否、考えられないのだ。


青峰は本当は桃井さんが好きなんじゃないのか。はたまた実はホモで、元相棒の…確かテツさんとできてるんじゃないか、だからあんなにテツさんに関しては何か執念みたいなものを感じるのではないか。

そんな私の心配なんて、彼には考えもつかないのだ。私もバカだな、こんなに深読みしなければいいのに。本当に笑える。

何だか居たたまれなくなって、青峰の不可思議な表情から灰色のコンクリートタイルへと視線を落とす。二度目の溜め息が喉元を通り過ぎていくのが分かった。ああ。


「俺が好きなのはオマエなんだから、呼び方なんてどーでも良いだろ。違うか?」


出掛かっていた溜め息が、ユーターンしてまた喉を、気管を通り越し落ちていく。そうなのか、そんなものなのか。
今顔を上げたらにやけているのがバレてしまいそうで、でも何だかそれでも良いかなと思ったりもして、取り敢えず下を向いたまま大きく頷いておいた。



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素敵な妹さんに捧げ(押し付け)ます

キセキだったら厨二の彼が好きです。ハサミになりたい。



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