私の父親が整体師で、たまたまうちの店に地元クラブチームの新人って人が来た。それが私と彼、椿大介との出会いだった。椿くんは気が弱くていつもおどおどしていたけれど、話してみると笑顔は優しいし結構気さくだしで私達はみるみるうちに仲良くなっていった。

それで今、つまり私と椿君が付き合っているという状態に至る訳なのだけれど。
けれど問題はそこからで。


「椿くん、明日って練習?」
「あ、うん、練習」
「そっか、残念ー」
「あ、あのさ」
「ん?」
「こ、こんなくっ付かれてると照れるというかこっ困るというかその…!」


只今午後7時半、私の部屋で二人きり。
ただ椿くんの肩に体重を預けてリラックスしていただけなのに、彼は真っ赤になって抵抗するみたいに小さくたじろいだ。
私は逆に、椿くんには見えない聞こえないように微かな溜め息を吐く事くらいしか出来ないでいる。

そう、これが問題だ。つまり付き合ってから早2か月、椿くんが全く私に手を出してこないのだ。
余程私には色気というものが欠落しているのか、はたまた椿くんのチキン度が呆れる程高いからであるのか。多分後者だろうけれど、それでもこれは由々しき事態だと思う。

だってもう二十歳にもなる大人が、付き合ってるにも関わらずキスもした事がないんだから。椿くんは百パーセント童貞だ、なんてそれは別にいいんだけれど。

ちょっと我慢の限界ってやつを感じて、椿くんの抵抗を余所に彼の腕を絡め取って自分の胸を押し付ける。言うなれば、強行突破なう、そんな感じ。


「ちょ、ああああの!」
「椿くん、あのさあ、」
「はいい!」
「…焦りすぎ」


いくら何でも焦りすぎ。初にも程がある。
どうましましょうの溜め息を吐くと、顔を達磨みたいに真っ赤にした椿くんの肩がちょっとシュンとしたようにうなだれた。どうしてだろう。取り敢えず可愛いけどどうして。


「椿くん?」
「ほんとごめん俺…」
「え?」
「俺、その、ヘタレで…」
「うん」
「どっ、努力はするから!」


努力って何の?彼の言葉の真意が分からずそう小首を傾げると、今度は茹で上がったタコみたいに耳まで真っ赤になる私のいとしいひと。そのついでに小さな声で「き、キスとか…」ときたものだからもう可愛いったらない。

椿くんが童貞を失うまでにあとどれくらい時間掛けよう。
そんなまるで彼氏みたいな事を考えながら、まだオロオロと覚束ない様子の椿くんに微笑んでみせる。

そう、まずはこのまま彼の肩に腕を回して、自信なさげな台詞しか吐き出さないその可愛らしい口を塞いでしまわなければいけない。



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gkキャラ総じて大好き。みんなと結婚したい。世良と王子に挟まれたい



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