「ねぇ、名前。名前の考え事って何?」



それは二日目のお昼、練習を終えたフィディオに尋ねられたものだ。

ぺペロンチーノを食べている私にぐっと顔を近づけてきたので彼の顔を押し返して距離を取る。



「顔近いよフィディオ!…あんまり詳しくは話せないけど、私の夢と親の希望が食い違っててさ」



私がどうしたいのかを自問自答したい。でも一人で考える時間がなくてこういう行動を取ったんだけどね。

苦笑しながらフィディオにとてもアバウトな説明をする。フィディオは少し考える様子を見せた。



話してくれてありがとう。そうにっこりと眩しすぎる笑顔で言ったフィディオは私の手を突然取った。

二人で逃げたあの日と同じように手を握りしめたまま宿舎を飛び出す。



「ど、何処行くのっ!?」



「名前は一人で抱え込んじゃうタイプみたいだから気分転換しにいこう!」



…なんて優しいんだろう。純粋に私はそう思わずにはいられない。

突然会った人にここまで親切にしてくれて、献身的になってくれて。練習でヘトヘトだろうに。

彼が微笑みかけてくれる度に、私の心臓が一回、二回と大きく高鳴る。



「フィディオは優しいね。ありがとう」



「名前はもっとオレを頼ってよ。一緒に逃げるって約束したんだからさ!」





この胸の高鳴りは、彼に惚れ込んでしまったからなんだろうけれど今はまだ、このままでいいと思う。



飛び出した宿舎に残ったのは食べかけのぺペロンチーノ。

勿体なかったかなぁなんて密かに思ったけれど、フィディオとこうして一緒に走れるならそれでいいと思った。