フィディオと走って逃げ回っていたあの夜から時間が経ち、目が覚めると朝がやってきていた。



…あれ。フィディオと逃げて私、何処で寝てるの?



「おはよう、名前!」



寝返りを打ってみると至近距離にあるフィディオの笑顔。あまりの近さに驚いて私はベッドから跳ね起きた。

え、えええっと、あれ、何処ここ!?疲れ切っていた私の頭は走り抜けた後の事をよく覚えていない。



「大丈夫。オルフェウスの宿舎の中だよ。ちょうど空室があったから名前の部屋にしてもらったんだ」



君の荷物はそこにあるよ。そう言われてフィディオの指さす方向に目を向ける。

あったのは昨日担いでいたキーボードと、見覚えのない大荷物。何だろう、持ってきた覚えないんだけど…



大荷物の中を覗けば入っていたのは服やらお金やら。まるで旅行鞄…って私が持ってきてた旅行鞄そのままだ、これ。

フィディオが言うには昨日追いかけてきた男の人が持ってきたよ、らしい。…許して、くれたんだ。

中に入っている忘れたままのケータイには新着メールが一件。お母さんからだった。



『あなたの考えに整理がついたら戻ってきなさいね。くれぐれもフィディオ君に迷惑をかけないように。待ってるわ』



「うわっ、何これお母さんもOK出してる」



ああ、そう言えばこの間オルフェウスの取材で監督と仲良くなったってお父さん言ってたっけ。



「この部屋は名前が自由に使っていいって。監督と名前のお父さん、知り合いなんだね」



「なんだかこの前取材した時に意気投合しちゃってお酒よく飲みに行くって言ってた」



苦笑いで答えると練習の時間だからごめん、とフィディオは部屋を後にした。

…私も、どうしたいのかちゃんと考えないと。でも今日は…羽を伸ばしてもいいよね。

私は窓の近くにある椅子に腰かけて練習風景を見つめる。そのまま私はぐっすりと眠りについた。