――私と一緒に、逃げてくれませんか?名前は確かにそう言った。

とりあえずどうしてそんな事を言うのかだけは知りたい。けれど名前は事情を話してくれなかった。



「…戻りたくなくて、両親のところに」



短い間でもいいの。自分の気持ちを一人で整理したいだけだから。

詳しくは話してくれないけれど大まかに説明した名前はオレに頭を下げた。



「だから、気持ちの整理がつくまででいいから…私をかくまってほしいの。お願い」



「で、でもさ…」



会ったばかりの女の子をかくまったりしても大丈夫なのだろうか。そんな考えがオレの決断を鈍らせていった。



「もちろん無理は言わないから…嫌なら嫌って言ってほしい」



伏し目がちに言う名前。どうしても放っておけない。そんな風に思った。



「いたぞ、こっちだ!」



そんな言葉がオレの耳に届く。声の主は先程ボールをぶつけた大人だった。オレは名前の手を取ってまた地面を蹴る。



「フィ、ディオっ!?」



「一週間!一週間だけ付き合うよ!」



そう答えを返すと名前は目を輝かせてオレの手を握り返してきた。不覚にもドキリとしてしまう。



「時間を、ください!考える時間を一週間ほど!」



追手に顔だけを向けた名前がそう叫ぶように言うと追手のスピードがみるみるうちに落ちていく。

その隙にとオレと名前は全速力ですっかり暗くなった夜の街を駆け抜けた。