――数日後。どうしてもタイトルが決まらなくて未完成のままだったそれはやっとひとつの形になった。

お母さんにも私の意志を話した。シンガーソングライターを目指す。それを納得させるために。



シンガーソングライターを目指すなら頑張りなさい。ピアノは強制しない。自分の為になると思うなら続けなさいな。

意外にもあっさりと私の意志を尊重してくれた事に拍子抜けしてしまう。お母さんは嬉しそうに笑っていた。



フィディオ君が名前を前向きに変えちゃったのかもしれないわね、なんて。

あながち間違っていないけれどどうやらお母さんにはお見通しのようでくすくすと笑い声が聞こえる。

お母さんが茶化してくるのをスルーして、いつも持ち歩いているキーボードと完成した楽譜を手にして私は部屋を飛び出した。

フィディオがいつも練習していたグラウンドへと足を進める。そこにはやっぱりフィディオの姿があった。



「フィディオ!完成したよ!」



振り返る彼はいつもと同じように顔を綻ばせた。近寄ってくるフィディオの前で私はキーボードを取り出して歌う。

日本語の歌詞で作られたこの曲はフィディオには歌詞を理解できなかったみたい。



「フィディオがいたからこの曲が完成した。このタイトルはロールアウトって言うの。完成って意味があるんだって」



「まだ完成してないよ、名前。ほら、お預けになってたし」



私は一瞬何の事かと思ったけれどすぐに思い出した。そう言えばまだ言ってないし言ってもらってもいない。



「名前、オレは名前が好き。…名前は?」



私はドクドクと脈を打つ心臓を押さえながら大きく深呼吸をした。一言が上手く言い出せないけれど勇気を振り絞って声を出す。



「私も、フィディオが好、」



言いかけた言葉を遮るようにフィディオの唇がそっと頬に触れた。両思いだね、なんてはにかみながら言うものだから顔に熱が集まり出す。



「わ、私の勇気を無駄にしないでよ、フィディオ!」



顔を真っ赤にして怒鳴りつけても説得力なんてないけれど。顔を見合わせた私達は笑いを堪えられなくなる。





本当にこれが完成なのかは分からない。完成したうちのほんの一部かもしれない。

けれども本当にすべてが完成するその時まで、隣に君がいてくれますように!