いつもどおりサッカーの練習を終えて帰り道をゆっくりと歩く。

レンガに囲まれた穏やかな町並みは今日は静かではないみたいだった。



曲がり角を曲がろうとすると人影がたくさん映っている。聞きなれない言葉の怒声が聞こえた。

どうやら一人の女の子と二人の大人で口論をしているようだった。



「私は戻らないから、しばらく一人にさせて!」



痺れを切らした女の子の声は英語だったから意味を理解出来た。

女の子が腕を引かれている。それを振り解こうと彼女は必死に暴れ出した。



――これは助けるべき、かな。



手にしていたボールを勢いよく蹴って一人の大人の顔にぶつけた。

大人が怯んでいるうちに、と知りもしない彼女の手を引いてそのまま走って逃げた。



出来るだけ離れるように長く走って追手の姿が見えなくなった頃、オレは彼女の手を離した。



「君、大丈夫?」



息を切らした彼女に尋ねると首をかしげた彼女は申し訳なさそうに英語を呟いた。



「…ごめんなさい、イタリア語、だよね?私あまりイタリア語話せなくて…英語でも大丈夫、かな?」



ああ、そういうことだったのか。と思ってオレも英語で言葉を返す。



「もちろん大丈夫だよ。ところで君の名前は?」



「私は名前。苗字名前っていうの。日本人なんだ」



これが彼女との出会いであり、いろんな事の始まり…でもあったみたいだ。

もちろんのこと、オレはそんな事に気付くわけもなく。時間は止まらずに進んでいく。