とうとう約束していた一週間が過ぎ、名前は両親のもとへ帰る事になった。

改まって深々と頭を下げた名前の顔はとても凛としていた。



「…なぁ、名前。もう少し、ここにいないか?」



言ってしまってから後悔する。何を言っているんだろう。名前の迷惑になる事だって分かっているのに。

名前は笑顔でオレの手を握るとありがとうの一言。



「でも私、今回ばかりはちょーっとやらなきゃいけない事があってさ。さすがにドタキャンってわけにもいかないの」



一緒のグラウンドにいたマークがきょとんとした目でよく状況を理解していないオレを見る。ディランはというとにやにや笑っていた。



「フィディオ、知らなかったのか?」



「まーそりゃそうだよね。ミーがこの間言いかけた時も分かってなかったみたいだしさ」



黙ってくれてありがとう二人とも。へらりと頬を緩ませた名前は荷物を抱えて改めて自己紹介を始めた。



「私は苗字名前。まぁ、名前でピンとこなくてもこれを見せれば分かるかな?」



名前はそういうとペラリと手にしていた張り紙を見せる。何度もイタリアで見た事のあるものだ。

綺麗な衣装を着ている女の子はよく見ると名前にそっくりで、親戚のおばさんも見に行ったというコンサート。



「な…っ、名前ってピアニストだったのか!?」



張り紙を見て硬直している間に名前はグラウンドの階段を駆け上がっていた。

距離を取られるの嫌だから黙ってたの!そう言った名前は一度振り返ってオレに言う。



「未完成の曲、完成したらまた会いに来るから!だから待ってて、絶対に!」



「待ってるよ!名前の歌、一番に聞く!」



名前はオレの返答に安心したような顔で大きく手を振るとグラウンドを走り去って行った。

できるなら離れたくないなぁ、なんて思ったけれど欲張ったりしない。



一番になる為にいつでも待ってるよ、名前。