「フィディオ!」



追いかけてきた名前が呼んでいる。さっきのエドガーの言葉ばかりが頭の中で響いていた。

オレが名前に見せた表情はどんなものだったんだろう。たった数日しか一緒じゃないはずなのにすごく苦しいんだ。



「…名前、」



だからせめて、これだけは言っておきたくて。オレは名前を抱きしめる。強く抱きしめたくなる衝動を必死で抑えて。



「名前がエドガーの婚約者だなんて知らなかった。オレは名前の事、何も知らない。…けれど名前が一緒にいてくれるとすごく嬉しくなるんだ」



「ちょっと待って。…エドガーの言った事は嘘だよ」



エドガーと知り合いなのは本当だけど婚約者なんかじゃないし。名前はオレの背中をあやすように叩いて言った。

嘘、だったのか?嘘だとは気付かずに感傷的になって抱きしめてしまったのが恥ずかしい。ごめん、と謝る。

離れようとすると名前はこのままでもいいと離れなかった。



「フィディオに抱きしめられるの、悪くない」



「名前。…オレさ、名前のこと、」



「ストップ。ねぇ、その先は完成したら聞かせてほしいかな、なんてね」



明日には間に合わないかもしれないけど完成したら必ず届けるから。

約束の証にと指切りを迫る名前の小指にオレの指を絡めた。名前は少しだけ頬を赤くして笑顔を見せた。



そんな約束を交わしてオレ達は自然に手を繋いで帰り道を歩いた。