あの環境から抜け出したい。そればかりをずっと考え続けていた。自分の弱い部分と向き合う事もなく逃げ続けるのを環境や…母のせいにして、逃げる事を選んでいたんだ。



フィディオを利用した、と言えばそうなるだろう。



けれど私はもう逃げたくはない。まっすぐ進みたい。短い間だけれどずっとそばにいたフィディオみたいに。



背中を押してくれるエドガーがいた。私の事を内緒にしてくれたディランとマークがいた。



そして何よりも、隣でいつも笑っていてくれるフィディオがいた。

私ももう逃げるのをやめるよ。前に出てみるよ。だから、ねぇどうか。



「フィディオ!」



立ち止まっている彼の名前を息を切らした声で呼ぶ。サッカーボールを手にしている彼は悲しそうな顔を私に向けた。私は息を吸って、手をぎゅっと握りしめた。



「…名前、」



フィディオに名前を呼ばれて何を言われるのかと体を強張らせてしまう。



ふわりとあったかい感覚。…ああ、心地良い。両親にやってもらえなくなっちゃった事。

抱きしめてくれてるんだと理解するのに時間はかからなかった。



ねぇ、どうか。

私の進む先にいるのが、

いつも笑っている君でありますように。