泣き腫らした目で名前はずっと五線譜の書かれた紙にペンを走らせていた。

破かれてしまった楽譜は乾かしてどうにか文字が読めるといった状態だったようでもう一度書き直している。



「ちょっと曖昧になっちゃったけど、あともう少しで完成しそうだから」



頑張ってみるよと笑う名前はもう一度紙に目を向ける。オレもちゃんと練習しなくちゃな。

一緒にまたグラウンドへ行くと名前は楽しそうに笑った。練習の合間に聞こえる名前の声が心地良い。



誰かが地面を踏みしめる音が聞こえる。マークやディランでも来たのかなとオレは顔を向けた。



「エドガー!」



名前の歌が止まり、エドガーの名前を呼ぶ。エドガーに駆け寄った名前はどうしたの、と尋ねた。



「昨日はすまなかった。名前」



「…別に、もう大丈夫。何とかなったからさ」



名前が苦笑しながら答えを返すと、エドガーも柔らかい笑顔を見せる。

お似合い、と言うのが正しい二人にオレはまた心の底で嫉妬してしまった。

するりと名前の背後に回り、彼女の手を取ったエドガーはオレを見てにっこりと笑う。



「名前は私の婚約者なんだ」



手の甲にキスを落としたエドガーはさらりと言い放つ。

上手く言葉に出来ない感情が込み上げる。あまりの衝撃に頭の中は真っ白だ。



「…そうだったんだ。じゃあ二人とも、ごゆっくり」



足元に転がるボールを拾い上げてオレはその場を逃げるように立ち去った。

どうして、言ってくれなかったんだろう。それを知っていればこんなにも衝撃が強い事はないはずなのに。



今度は名前じゃなくて、オレが目の前の事実から逃げ回る番になった。