途中まで完成した名前の曲を聞く。歌詞は日本語で意味は曖昧にしか聞き取れなかったけど、とても心地よかった。

オレが練習をしている間、名前は近くに腰かけてオレの練習を見ながら歌を口ずさむ。



「フィディオ!」



聞き覚えのある男の子の声が聞こえた。振り返ってみるとオレの名前を呼んだ声の主がいる。



「マーク、ディラン!」



「ちゅーす!久しぶりじゃん!」



自由開放しているグラウンドに入ってくる二人。彼女は?と名前を見て言うマークに名前は目を輝かせていた。



「ユニコーンのキャプテン、マーク・クルーガーにフォワードのディラン・キース!会えて嬉しいな!」



出た、名前の癖だ。お父さんがサッカー雑誌の記者である為か、サッカーの事になるとすごく楽しそうに笑う。

初めてオルフェウスの宿舎に来た時もそうだったけど…

名前が一番嬉しそうにしているのは歌っている時だって知っているのは多分、オレだけ。



「彼女は名前。日本から来たんだって」



「名前?なんか聞いたことあるんだけど…あ、ミーその子知ってるよ?世界各地を回ってるピアニス…」



やっぱり何でもないよ。そうしてディランは笑いながら言葉を止めたからよく聞き取れなかった。

名前が、どうしたんだ?今思えば名前はオレの事を知っているけれど、オレは名前の事をよく知らない。

マークやディランと楽しそうに笑う名前を見るたびに何だかもやもやする。これは多分『嫉妬』。



名前をもっと知りたい。そう思ったのは既に四日目の午後だった。