何処からか微かに綺麗な音色と消え入りそうな声が響いているように感じた。

宿舎の近くのグラウンドをぐるりと走って音の聞こえるほうを辿って行くとその先にいたのは、



「名前?」



がたがた、がたん。オレの姿に気がついた名前はすぐに何かを隠そうと慌てた。

ひらりと一枚の紙が足元へと飛んでくる。オレはそれを拾い上げて目を通した。

見ないで見ないで!顔を真っ赤にした名前の言葉をスルーする。



拾い上げたのは五線譜の紙。真っ黒になるまでに書き込まれた跡。名前の文字で書かれているものだった。

何度も何度も書いては消しての繰り返しをしたことが分かるようなもの。



「これってまさか名前が、」



「あーもう何も聞こえないーっ!!」



真っ赤になった顔で両手で耳を塞ぎながらわざとらしく大きな声を出す名前に説得力は全くない。

だって彼女の目の前にはいつも持ち歩いているキーボードがあって、その横には五線譜の紙が束になっているから。



「…作ってたの。シンガーソングライター、私の夢だから」



「じゃあさっきの歌声も音楽も全部名前が作ったの?」



うわぁ、そっちまで聞こえてたんだ。そう言いながら俯く名前がとても可愛らしく見えたのは内緒だ。



「まだ未完成なんだけどね。頑張って完成させたいんだ」



そう話す名前は今までになく嬉しそうな笑顔でそう言った。オレはそんな名前を応援してあげたいと思った。



「完成させたら一番に聞かせてくれないか?」



そう聞いてみると名前はもちろん、とでも言ってくれるかのように強く頷いてくれた。