「ナマエ、お前に話がある」

ピオニー陛下が自室に戻ろうとする私を引き止めた。私は迷う事無く陛下の元へ急ぐ。陛下の後をついていくとあまり人気のない木々に囲まれた場所へ着く。陛下は木の根元に腰をかけた。私もその隣に腰かける。陛下は唐突に、ジェイドの話を持ち出してきた。

「お前は、あいつがフォミクリーを作った理由を知っているか?」

「…ごめんなさい、分からないんです。私は、ジェイドの事を何も知らない…」

ならお前に知っていてほしい事がある。そう仰った陛下は静かに、ジェイドの過去の話を私に教えてくれた。

ネビリム先生。ジェイドが尊敬していた恩師。不慮の事故で亡くなられてしまった。そしてジェイドは前から研究していたフォミクリー技術で、一度死んだ人間を蘇らせようとした…。結果は失敗に終わったものの、それでも諦めきれなかった。もう一度研究してみたのだけれど、彼はそれを禁忌とした。研究を再開した時に造られたレプリカ達は…ジェイドの手によって、処分された。

「生きながらえたレプリカはきっとナマエくらいだ。引き取り手がいたのが幸いだったな」

「じゃあ…ジェイドはそんな辛い思いをしながら、私をそばに置いてくれるのはどうしてですか?私は彼の古傷を、抉る事になりかねないはずなのに、どうして、どうして…私に出来る事は、何かないんですか…?」

陛下は心底寂しい顔をして、私を見る。そうして私の頭をそっと撫でながら呟いた。

お前に出来る事は、何もない。…何も、ないんだ。でも知っていてほしかった、この先の為に。

陛下の言葉の意味を、理解する事が出来るほど私に余裕はなかった。ただ、ただ、私はいらない子なのではないのかと…

存在理由をまた失ったような感覚に、涙を覚えた。