父は、気付かぬうちにいなくなっていた。母というものは元から存在していないし、兄弟や姉妹はいただろうけど、私はいつも独りだった。「作られた」存在。それが私であり、劣化複製品、人々がレプリカと呼ぶもの、それも私だった。

最初は貴族の令嬢の影武者として尽くす事が私に課せられた義務であり、生きる理由だった。必死で人を殺す術を覚えたし、食事も、身のこなしも、マナーも全部覚えるしかなかった。

貴族の娘、名前は友人。友人はとても優しくて、自分と瓜二つであるはずの私を怖がる事無く受け入れてくれた。ナマエという私の名前も友人がつけてくれたもの。友人は私と二人きりになると一緒に遊んでくれたし、言葉も教えてくれた。友人とその両親達はとても幸せそうに見えて、私は心底うらやましく思った。憎いくらいに。

ある日、友人が突然発作を起こした。障気によるものらしく、病弱でもあった彼女は私を見て笑うと、静かに息絶えた。

「ありがとう、ナマエ。私の、お友達になってくれて」

友人は最後に、そんな言葉を投げかけたのだ。私は泣いた。ずっとずっと泣いた。友人の冷たい手をぎゅっと握って。私はあなたの影武者であるはずなのに、友人はそうは思っていなかったんだ。自分の劣化複製品なのに、一人の女の子として、ずっと見ていてくれたんだ。

彼女の優しさを全身で感じる度に、私は辛くて辛くてわんわん泣いた。
彼女の両親は、私を見たらどう思うのだろう。友人にそっくりな劣化複製品を見たら。私は友人じゃない。友人じゃないって事実に悲しむと思ったから。私は何も言わないで、あの家から出た。生きる理由が何もなくなっちゃった。どうしよう、ああ、消える前にせめて、最後に。

「お父さん…会いたい。いなくなるなら、最後にお父さんに会って、それで」

私の音素を、バラバラにしてもらおう。覚えているのはほんの少しだけ。製造された私はすぐに意識を手放したから。

綺麗な紅の目に、淡い茶色の長めな髪の毛、ミルクティーみたいだったなぁ。