突然現れた少女は真っ白な長袖のワンピースをふわりとなびかせていた。少女、とは言ってもおよそティアと同じくらいの年齢に見える外見だ。じっと、グランコクマ宮殿前の噴水の縁に腰かけている少女。それが二週間も続いていてはさすがにおかしい。

「どうしてあなたはいつもここにいるのですか?」

「ごめんなさい、陛下がいる場所だとは知っているのですが…迷惑、ですよね」

しっかりとした敬語だがどこか幼さを感じさせるような口調で話す少女は私の顔を見上げる。軍服を見て軍人だと気が付いたのだろう、意を決したような表情を見せた少女は言葉を続けた。

「私、ナマエっていいます。…父がここにいると知って、ずっと、生まれた頃から…探しているんです」

「そうですか。…あなたの父親の名前は分かりますか?」

「それが、分からないんです。意識がはっきりとしていない頃にはもう、父はいなくなっていたので…」

ぎゅっと手を握りしめたまま、辛そうに顔を歪めた少女はただ、覚えているのはと呟く。バルフォア…という名前だった。少女はさらに表情を歪めると私に追い打ちをかけるような言葉を続けるのだった。

「あなたは、フォミクリーという技術を御存じじゃありませんか?」

その瞬間、世界が一度凍りついたように止まった。