「アッシュはまだ来てないのか…」

レムの塔で計画を実行しようとしているアッシュを止めようと急いだがその場にアッシュの姿はない。ただ、レプリカ達が今か今かと待ち望んでいる…消滅する事を。その中にはガイの姉やフリングス将軍のレプリカの姿。レプリカ…いや、彼女達はまだ残る自分の同志達に居場所を与える事を条件にここへ来たのだという。

「我らと共に死に至る道へ進むのはお前のほうか。…私達が死ぬのは被験者の為ではない。けれどお前達は、我々が死ぬ事を望んでいるのではないか?」

マリィの言葉に戸惑いを隠せないルークは怯むが、そこに響いたのはアッシュの声。どちらが心中するかと言い争いを始めた二人を…眺める事しか出来なかった。私はもっと残酷な答えを出すだろう。いや、ルークはそれに気付いている。

「私はルークの意見に賛成です。…残すならレプリカより被験者だ」

私はぽつりと、その言葉を呟く。半分はルークの背中を後押しする為に、と誰にも理解されない気持ちを込めて。必死に叫ぶルークが音素を集め出した瞬間、集まっていく音素が離れていった。拡散していく、何故…!?

「宝珠の在処は、すぐそこにある。…拡散の力を持つ、宝珠が」

無機質な声で呟いたナマエは私の隣から一歩ずつ離れ、ルークの元へ向かおうとする。私はとっさにナマエの腕を掴んだ。

「何をしているんです、ナマエ!あなたも巻き込まれます!」

久し振りに感情が昂った声を上げる。肩を震わせたナマエはそっと振り向き…涙を流した顔で無垢な笑顔を向けたのだ。するりと、容易く掴んだ手が離れていく。ぽつり、ぽつりとナマエが何かを囁いていくのが聞こえた。はっきりと聞き取れた言葉はあまりにも強い衝撃を与えた。

――あなたを苦しめて、ごめんなさい。

ゆっくりと進んでいくナマエの小さな背を見つめながら、彼女が消えていく姿を茫然と見守るしか出来なかった。