星や月を遮る事のない程度に雲のある空には星が散りばめられている。
寝静まったキャラバンからそっと抜け出して私はそのうち来てくれるであろう立向居を待った。
星の位置は動いていたけれどまだ見えていたスピカ。時間を潰すように周りの星を辿れば出来たのは乙女座。

「恋する乙女って苦労するもんなんだねー…はじめて知った」

「それは男子だって同じですよ?」

立向居の声が聞こえて辿るように空に向けてあげていた手をそっと下ろして振り返る。立向居は笑顔のまま私の前で足を止めた。
さぁ、ちゃんと言わなくちゃ。大きく深呼吸をして息を吸い込んで声を出す。

「立向居」

「どうかしたんですか、苗字先輩?」

「私やっと答え出せる。…この間ははぐらかしたりしてごめん。まだあの時は君を恋愛対象として、見てなかったから」

「そう、ですか…別に俺、気にしてませんよ」

「だけど私は立向居の事が、」

最後の一言が切れた。自分でもよく分からなかったけれど意思より先に体が先走ってしまったようで。
目の前は真っ暗なのに温かい。私の体は意に反して立向居に抱きついていたようだ。羞恥心が込み上げてみっともないけれど少しだけ涙が出そうになる。

「…好きなんだって気付いたの昨日なんだよね…」

そう私が言えば立向居の笑い声が響いて頭を撫でられた。年下に慰められるってちょっと変だけどあまり気にならない。
立向居が恐る恐ると言った感じで抱きしめ返してくれて両思いになったんだという実感が湧いてくる。嬉しくて、嬉しくて。逆に泣いてしまいそうだ。

「私恋愛とか疎いからゆっくりでいいかな」

「そのほうが先輩らしいですよ」

「それじゃあまずは名前からとかかな。ね、勇気君」

「君なんてつけなくてもいいですよ名前さん」

「昔からのクセでさ。名字は呼び捨てに出来ても名前は君とかつけちゃうんだよね」

他愛のない話をしてさりげなく繋いだ手は温かいけれど恥ずかしさが少しある。
空を見上げれば私達だけだったけれど歓喜の声が上がった。ああ、そう言えばテレビでやっていたな。

「ねぇ、すごいよ流星群!」

「いっぱい流れてきますね、名前さん!」

祝福するように降り注いだ星が嬉しくて、私達は顔を見合わせると小さく笑って繋いだ手を強く握り直した。