遠くを眺めれば綱海さんと真剣な表情で話をしている先輩の姿が見えた。
少しの間続いた真剣だけれど少し複雑そうな表情は和らいで二人はけらけらと楽しそうに笑った。
綱海さんが先輩の頭を撫でれば先輩も負けじと髪をぐしゃぐしゃにしてじゃれ合っている。
遠くから眺めていればきっとカップルにしか見えない。だからどこかしらモヤモヤとしている自分がいる。

苗字先輩は綱海さんの事が好きだったりするんじゃないか、と。
このまま俺が先輩を好きでいたらもしかしたら迷惑なんじゃないのかな。追い続ければ失うんじゃないかな。

最初、苗字先輩と知り合った時は先輩は俺の憧れだった。
同じキーパーで女の人であんまり言いたくないけどそれほど腕力とかがあるわけでもない。
ただ何があっても諦めないし、相手がエイリアだろうと楽しそうにサッカーをやっている。まるで円堂さんみたいに。
いつしか憧れが好意に変わっていた。失うのはきっとその憧れ。
思いつめていると背後からいきなり肩を叩かれて驚いた俺はビクッと肩を震わせた。

「っわ!!」

「何気難しそうな顔してんだよ、立向居?」

先輩と話を終えた綱海さんはいつの間にか戻ってきていたようで俺の様子が気にかかったんだろうか、声をかけてくれた。
驚かさないでくださいよ!と言えば悪かったな、と笑いながら謝った綱海さん。
さっきの先輩と二人きりだった事が思い出されて少し複雑な気持ちになった。

「さっき見てただろ?あんまり気にすんなよ、苗字と俺そういう関係じゃねーし」

「つ、綱海さん!」

「相談受けてたんだ。アイツ結構悩んでるみたいだったぜ」

お前の事で。そう告げた綱海さんは円堂さんに呼ばれて踵を返すとすぐに行ってしまった。
悩んでるんだ。先輩が、俺の事で。なんだか分からないけれど悪い気はしないしむしろ嬉しさが込み上げる。
悩んでるってことは俺のこと考えてくれてるんだなんて自惚れた事だけれど。

さぁ、ここからどう動くかが分かれ道だ。