「苗字先輩、俺…」

今なら言葉に出来るんじゃないかと思って声を出す。
苗字先輩はと言えば状況がよく分からないのかまっすぐに俺を見ていた。

「好きなんです」

だんだん恥ずかしくなってきて先輩が、という言葉がきっと先輩が聞き取れないくらい小さくなってしまった。

「た…ちむ…?」

俺の告白を聞いた先輩は少し頬を赤く染めてから突然笑い出す。何がどうなったんだと今度は俺が戸惑ってしまった。

「違うよね、そんな事無いって…あはは、っ。きっと何かの間違いだよ」

「そんなこと…」

ないです、と言いかけた言葉は苗字先輩の強引なマシンガントークでかき消されてしまう。

「きっと何か違うものだよ。例えばほら、私がこの間作ったグラタンとか…ああなんかおなか減ってきちゃったなぁ」

…ね、立向居。甘いものでも食べに行こうか!
俺から目を背けた先輩はいつもの調子で暇だったら一緒に行かない?と言った。
ああ、なるほど。はぐらかされたんだなぁ。不自然な逸らされ方に少しだけ溜息を吐きそうになった。
気が付いていないフリをしているみたいだったけれどそれ以上何かを言おうとは思わない。
俺は表情に出さないで落ち込みながら何を食べようかなとはしゃいでいる先輩の後を追いかけた。

でも先輩、気付いてないんですか?
目を逸らす前に苗字先輩は少しだけ切なそうって言う言葉が似合うような表情をしていた事。