「はい、お疲れ様」

「ありがとうございます!」

もう少し話したいと声を出そうとすれば木野先輩が苗字先輩を呼ぶ。
苗字先輩は今行くから、と手短に答えるとちゃんと休んでおいてと笑いながら言ってくれた。

練習後になって食事を終えた俺が食器を手渡せば少しだけ先輩の指先が触れた。
勝手にバクバクする心臓。それを知らない先輩はオレの顔を見て言う。

「わざわざ運んできてくれてありがと、立向居」

「い、いえ!」

今回の会話もここまでで終了してしまった。
結局いつも中途半端で終わってしまう会話は一日に指折り数えで数えられるくらいしか出来ていない。

「お前って本当にツイてないよなー…頑張れよ!」

綱海さんが俺の隣で苦笑いしながら慰めようとしてくれた。
自分でもわかってるんです、そのくらい。頑張っているつもりではあるんです。
溜息を吐いた俺は寝る前に昨日先輩が言っていたスピカを探してみて小さく呟いた。

「明日はもっと話したりできないかな…?」

ちなみにこの問いは今まで何度も繰り返してきているんだけれど。

「立向居」

寝ようとした時にちょうど苗字先輩とすれ違って名前を呼ばれた。
どうかしたんですか、と問えば特に何もないよ、と答える先輩。そのまま言葉を続けた先輩はただ一言。

「おやすみなさいってそれだけなんだけど」

「あ、えっ…と、おやすみなさい、苗字先輩!」

そんな些細な会話でもバクバクと動く心臓。指折り数え、一本分増えました。