どのくらい自分達は倒れていたのだろう。目を覚ましたユーリはまだはっきりとしない意識で体を起こした。
まわりに倒れていた仲間も同じように目を覚ましては体を起こす。ユーリの部屋にはただ、真昼間の日差しが差し込んでいた。

「俺達は何してたんだ…?」

ユーリがポツリと呟く。淡い光が強く光ったのと共に意識を手放したところまでは覚えている。
そもそもその光が何だったのか、そして今感じている違和感の元凶が理解できなかった。

「ねぇ…誰か足りないって感じしない?」

それはこの場にいる全員が感じている事だった。うっすらと残る面影、それが誰なのかがよく分からなかった。
残っていた淡い光の筋が床に散らばっていた写真に零れ落ちる。そっとカロルが床に散らばった写真をかき集めて目を通すと驚いたように目を見開いて慌てていた。
かき集めた写真をみんなに見せると全員が目を見開いてしまった。その写真に写っているのは仲間だけではない。
存在していないはずのうっすらと残る面影の姿が写真に写っていた。

そうして不思議な感覚を背負いながら一ヶ月が過ぎ去り、道中で立ち止まったユーリはもう一度写真を見て思い出そうとする。
この人物の名前。短い間だったものの一緒に旅をした、名前。

「…名前、」

ユーリが面影の名前を呟くのと同時に光の筋が強く輝くと全てを包み込むよう真っ白に染まる。
そうして全員は白一色に染まった世界に包まれていった。


私が現実に引き戻されてから早くも一ヶ月が過ぎてしまっていた。
賑やかだった環境から急に静かになってしまった事もあって元の環境に違和感さえ感じていた。
一ヶ月が経ってやっと落ち着いてきたような感じで一人暮らしの生活に戻ってきている。

「みんなは…どうしてるんだろ」

握りしめていた写真とつけたままだった魔導器はしっかりと残っていた。それが本当にテルカ・リュミレースにいた事の証になるかのように。
家に帰りドアノブを捻ろうとすると誰もいないはずの家から声が聞こえてきた。それも複数人いそうな声。
不安になりつつも恐る恐る家へと入っていった私は驚きと感動で動けなくなってしまった。

涙で滲む視界に見えていたのは別れたはずだった異世界の大切な仲間の姿だった。

「悪い、今度は俺達がこっちに来ちまったみてぇだ」

そう言いつつも笑ってこちらに目を向けるユーリ。浮世離れした容姿とその言葉に嘘はなかった。
そうして一番最後に言った言葉の返事を聞いていなかった事を思い出す。

「返事…まだ聞いてないよ?」

「これが返事だ、って言ったらどうする?」

動けなくなった名前の腕を引いて他のみんなには見えないように名前の頬にユーリはキスをした。

顔を真っ赤に染めて動揺を隠せないでいるリタ。それを冷静に微笑みながら見るジュディス。
頬を赤くしてギャーギャー騒ぐカロルにぐったりとした様子で見守るレイヴンとラピード。
まるで自分の事のように嬉しそうに笑うエステル。名前は呆然としながら自分の恋が叶ってしまったのだと遅れて理解した。

嘘、異世界の人にした恋がまさか叶うなんて。名前は嬉しさを堪え切れずにみんなに飛びついた。
嬉し涙を流しながらも確かめるようにもう一度強く抱きつく。そこには確かな存在があった。

今まではほんの序章に過ぎない。今に至るまでの物語。
終わったと思った物語はまだ、加速をつけて始まったに過ぎなかった。