真っ白な空間の中に一人だけぽつりと残されているようなそんな心細さを感じた。
それと何か水中に身を潜めているような浮遊感覚が体全体を包んでいる。

「――…おい…」

誰かの声が耳に届くと一気に安堵する。そうしてその声に引きずられるかのように意識を戻していった。

―――どう、して。

目が覚めると、そこは家の中だけれど、私の家ではなかった。目が覚めてから間もない為か状況がうまく飲み込めずにいたのだが。

「大丈夫か?」

「え…」

大丈夫かと尋ねられたその声は真っ白な世界で聞いた声だった。それを聞いて少し考え込むとあの白い世界は夢だったのだとようやくわかる。

声の主である長い黒髪の顔立ちの青年(かどうかはよく分からないが)が窓枠に腰掛けながらこちらの様子を見てきた。
青年が腰かけている窓から外の様子を覗くと私は驚きのあまり何も言えなかった。

まず驚いたのは街並みだった。まるで中世の建物のよう、物語に出てくるような西洋の建造物が建て並んでいる。
真っ白な世界の続きを見ているかのようで恐怖が圧し掛かった。

「あの…すみません、聞いてもいいですか?」

「その調子なら大丈夫そうだな。で、どうかしたのか?」

私は自分がどうしてここにいるのか、ここはどこなのかを青年に問いかけた。もちろん簡単に事情を添えて、だ。
一方青年は吃驚した様子で私に目を向けていた。青年は私に向かって深くため息をつく。

「…テルカ・リュミレース。それがこの世界の名前だ」

青年は世界の事について断片的に話し始めた。
騎士団とギルドがあることと対立している事。魔物が外に沢山徘徊している事。
エアルというエネルギーと魔導器と呼ばれるものが生活を支えている事…

つまり異世界だということであって自分はその中に紛れ込んでしまったのだと。

「んでお前は下町にある水道魔導器のちょっとした暴走に巻き込まれて洪水の中に沈んでた。それを丁度見かけちまったのが俺だ」

「その節はありがとうございました。すみません、ご迷惑ばかりおかけしてしまって」

「別に構わねぇって。まぁ事情説明してもらった限りじゃお前住むとこもねぇだろ?」

ああ、妙に現実的なところを突かれてしまった。確かに青年の言っている事は正論だったので私は頷くしかない。

「じゃあここで生活しろ。俺が助けたんだから俺が責任もって面倒見てやるから」

心配そうにする私を見て慰めるようにくしゃくしゃに私の髪を撫でた青年はふわりと優しい笑みをこちらに向けた。
初対面相手にここまで責任を持ってくれる青年の厚意が純粋に嬉しく思えたのと同時に何か違う感情が浮かび上がった。

鼓動が早まっている、顔が火照っている。嗚呼、これがよく言われる一目惚れか。
ユーリ・ローウェルと名乗る青年はあまり素直じゃなさそうな印象だったが根は優しいのだと初対面なのに理解できたような気がした。

異世界に来て早々、私は叶わぬ恋をしてしまいました。