松風天馬という人間はまさに馬鹿正直な忠犬みたいだと改めて思う。

自分が正しいと思った事には一直線。後先考えずに猪突猛進。どんな場面に出くわしたって決まり文句は『なんとかなるさ!』とこの一言。
そんな姿を目にするうちに最初は邪険にしてた人たちも自分の世界に取り込んでしまうのだからこれまた不思議。
自分が信頼した人間に対してはそりゃもう信頼しまくって尻尾振ってるように見える。

そんな馬鹿正直な人間だからか、天馬は人に好かれていた。
マネージャーに好意を寄せられているのが目に見えて、私は深く溜息をひとつ。
好意を寄せているのは私も同じだからである。なんであんな奴に惹かれてしまったのだろうか、惚れてしまったのだろうか。サッカー部って結構レベルの高い方がいらっしゃると評判ですが。
やり場のない気持ちに唸る、唸る。剣城が私を不審そうに見た後に溜息をついて私の頭を軽く叩いた。

「痛っ、何すんのさ剣城!」

「何さっきから唸ってるんだよ。一種のホラーだ」

「私にだって悩み事のひとつやふたつはあるの!!」

何さ何さ、そうやって私をバカにするなんて…!私だって一応女子なんだから恋の悩みがあったって仕方ないだろ。つーか剣城って意外と先輩に人気らしいんだよね、クールな所がかっこいいとか言ってる人がいたし。こ、こいつのどこがよろしいのやら…!!

「へー、能天気でお気楽馬鹿な名前が悩み事?」

プツンなんて可愛らしい音ではなくブチッという盛大な音を立てて私の堪忍袋の緒がぶ千切れたような気がした。
こんな皮肉を飛ばしてくる奴は一人しかいない。甘い顔の裏に隠した性悪。騙されてる生徒多数。ひねくれ者の第一人者はこいつだけだ。

「…狩屋、どんだけ私の事けなしたいのよ」

「まったくもって正当な事実を言っただけじゃん?そんなんだから天馬だって…」

「わぁあああああああ言うなぁああああああああっ!!!」

そりゃそうですよ、葵ちゃんのほうが可愛いし正直者だし、水鳥先輩のほうが姉御肌で頼りになってかっこいいし!私のどこに惹かれる要素があるものか、いや、一つも存在しないではないか。自分の不甲斐なさに腹が立つ。長所が見当たらない私はどうしたら。

「あっ、いたいた!名前ーっ!」

「うひぁあっ!!?」

不意に私を呼んだ声に過剰反応してしまう。天馬の声だ。動揺しまくって何をすればいいのかわからなくてあたふたしていると剣城と狩屋に笑われた。この性悪共め!!

「練習終わったからこの間のテーピングの仕方の続き教えて!」

「ああ、わかった、今行く!」

手招きをしてる天馬のところへ走る前に目の前にいる性悪剣城と狩屋に馬鹿と呟いて走り去った。


「馬鹿はどっちだろうな」

「両想いに気付かないくらい鈍いんだから仕方ないだろ」

剣城と狩屋が苦笑交じりに交わした会話が私の耳に届く事はない。

鈍感少女を笑う声

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