簡潔に言えば、私は貶められた。騙された、利用された、と言うのが正しいかもしれない。いや、これは悪く言い過ぎてるか。でもあながち間違いではない。そう私は思ってる。
なのに何故かばおうと、弁解しようとする?相反する感情はうっとおしくて仕方ない。一人でそんな自問自答を繰り返し、彼の声で思考が戻る。

「こういうことだから」

ひどく妖艶で甘美な低音は淡々と音を発する。
まるで絶望に満ちたような悲鳴が無数に重なり、響き渡った。
発生源は周りに目に入る女子、女子、女子。
一瞬にして私の思考は停止した。それ以降、詳しい記憶は曖昧。

「最低だ」

女子が悲鳴を上げて、泣きながら逃げて私を睨みつけて何処かへ去って早数分。やっとのことで発した一言。自分の感情をすべてその一言で要約した。

「何が?」

気だるそうに髪をかき上げるその仕草、見える首筋、声を紡ぐ唇。
馬鹿みたいに甘ったるくて、酷く艶やかな存在がいつもどおりと言った様子で淡々と言葉を投げる。
ぎちり。そう音を立てているのは食いしばった歯が軋んだ音。

「私はあんたの召使いでもない、利用される為の人間でもない」

「ああするしかないだろ、他に何かいい方法でもあるわけ?」

「だからってなんで私があんたにキスまでされなくちゃならないんだ」

利用したとしか思えない。ぼそりと呟けばその言葉を拾い上げたのか、目の前にいる存在の指が私の頬へ向かってくる。
強く目を瞑って、体を強張らせる。そんな私の行動を無意味と告げるような優しい指先の動きは、何だ。

「苗字、利用された、とか思ってるだろ」

「…当たり前の事を、」

ギリギリまで迫る距離、息が肌を掠めるまで近付いた唇、距離はほとんど隙間を失くす。

「俺もそこまで馬鹿じゃねぇよ。…名前」

間髪いれずに届く次の言葉は、「好きだ」というもの。
思考が、対応が遅れ出す。何を言ったのか把握しきれていない頭。
どうせまた、私を貶める甘美な言葉に違いない。
そう感じてしまう私は一体何を信じればいいんだろうか。

「南沢、私は、」

自分の考えが分からないほど、南沢篤志という人間を掴めない。
(それでも私はきっとあんたを想っているのかもしれない。)

定まらぬ面影

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