雪原に立ってなかなか見る事の出来ない雪に一人で触れていると士郎君が私のそばに来てくれた。

「どうしたの、士郎君」

「寒かったから抱きついてみたんだ。あったかいね、名前ちゃんは」

ぎゅうっと思いっきり前方から抱きしめられた私は少しだけ頬を赤くしながら士郎君に問いかけた。士郎君の答えを聞いた私はそっと士郎君の髪を撫でる。心地よかったのか士郎君は目を細めて笑ってくれた。私が抱きしめ返せば士郎君が抱きしめる力も強くなっていった。

「名前ちゃん、好きだよ」

突然の言葉だけれど何度も言われている言葉。でも今日のその言葉には少し違いがあった。物悲しさを感じさせるような声の震え。いつもより低い声。不思議に思いながらそっと士郎君から離れて距離を取り彼の目をとらえてみる。涙が溜まっているのだろうか、士郎君の瞳には薄っすらと涙が浮かびあがっていた。

「士郎君、泣きそうになって…」

「ごめんね、こんなに弱くて。時々不安になっちゃうんだ」

君が本当に僕を好きでいるのか、アツヤじゃなくて僕を好きでいてくれるのか。大体予想は付いていた。不安定な感情が揺れ動いて不安が大きくなっていたんだ。

「大丈夫、心配しないで。私は士郎君が好きなんだよ、だから泣かないで士郎君」

不安に気付いてあげられない自分が悔しかった。泣きそうになっている。もらい泣きなのか分からないけれど自分の声が震えていた。士郎君を抱きしめて彼の肩に顔を埋める。

泣いているの?と問われた私は士郎君の代わりに泣いてる、と答えてやった。それを聞いた士郎君は小さな子供をなだめるように抱きついたままの私の頭を撫でてくれた。

優しい、大好きな士郎君。ずっとこうしていたいと思ってしまうくらいに好きで好きで仕方がなかった。

「ありがとう、名前ちゃん」

「大切なことだからもう一回。…私は士郎君が大好きなんだよ」

泣きじゃくりながらポツリと呟く。しばらく私達は二人きりで真っ白な雪の世界に佇んでいた。


涙の代理

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