私はただ傍観し続けた。手出しが出来なかったというほうがきっと正しい。真っ白な研究所に広がる赤。思考回路が鈍り始めて私は何も言葉を発する事が出来なかった。

「ヒロト…はる、や…ふうすけ…?」

ぐったりと倒れこんでいる三人から流れ出す鮮血。定まらない足取りで私はそっと近づいた。三人はまるで輪を作るように床に寝そべって、微かに息をしている。どうして、どうして、どうして、どうして!!

「なんでこんな事になるの…やだ…嫌だよ、すぐに手当てするから、」

死なないで。それを阻止するように私の手をつかんだヒロトのしなやかな手にはぐっしょりと血が付いていた。私の名前を呼んで、微かな掠れ声でヒロトは小さく言葉を紡ぐ。私はしっかりと耳を傾けた。

「俺達が…悪い子だからって…ねぇ、二人とも…?」

「悪い奴はいらない…だから俺達は…もういらないんだとよ…」

「雷門イレブンにも勝てないような…弱者はいらないと…父さんが…」

父さんが三人を殺そうとして、私は無傷のままで。ずっとお日様園のころから一緒にいた三人は胸から、手から、足から、額から血を流していて。あの頃と変わらない声で私の名前を小さく紡いだ三人は弱々しく微笑むと、最後の一言を告げて、そのまま息をしなくなった。

――ごめん、ひとりぼっちにさせて。

ずっと一緒にいたかったのに、エイリアとして生きていても、ばらばらのチームでも、みんなと一緒がよかったのに。離れていてもずっとずっと!
床に落ちていたナイフの輝きだけが鮮明に映し出される。それが余計に現実味を帯びさせた。息をしなくなった三人の中心に残された私は三人の血で赤く染まり、ただ一人息をして、涙を流して、叫ぶ。

傍観していた私は救う術を持っていたのに何もしなかった。いっその事なら私も殺してくれればよかった。そう、ラグナロクのようだ。神々さえも抗う事の出来なかった運命。父さんの願いがもしも、三人が死ぬ事だとしたらヒロトと晴也と風介は迷う事無く殺されようとしていただろう。

無力な私の、四人で一緒だった幸せな世界は沈んで滅んで、もう再生する事さえ、叶わなくなった。

「私だけ生きていて、ごめんなさい」

無機質な私の声が白と赤の静寂に響き渡った。

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3TOP死ネタオンリー企画 さよなら様へ


ラグナロク傍観者の思い

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