「いい試合だったね、イプシロンと」

「グラ…今はヒロト君、か」

「いやだなぁ名前。君なんてつけなくてもいいのに」

キャラバンへ戻る前に水道で顔を洗っていると背後から響いた声。振り返る先にはヒロト君がいて私は手を止めた。にっこりと笑っているヒロト君は私の数歩手前で足を止める。

今日はディフェンスじゃなくてフォワードだったんだね。的確に試合の様子を話すヒロト君の言葉を聞いて見に来ていたのかという事はすぐに分かった。

「ねぇ名前。こっちに来るつもりはないのかな」

「…ヒロト君。敵である私をどうしてそこまで連れ出そうとする理由は何かな?」

「俺が名前と一緒にいたいからだけど、名前だって今の状況をいいとは思ってないでしょ?」

一緒にいたいから、か。なんで私はよりにもよって彼を好きになってしまったんだろう。時間の問題。私が誰かほかの人を好きになるかもしれないし、それはヒロト君にだって当てはまる事。少しでも近くに入れればその可能性は少なからず低くなる。理解はしている。けれど出来ない。

つまりヒロト君のところへ行ってしまえば雷門を裏切ることになる。…だから無理だと私は首を横に振った。

「…まぁ随分と先の事になりそうだけどね。俺達が勝つか雷門が勝つかで大きく左右すると思うよ」

「まだヒロト君のチームとは戦ってないから未知数だけど雷門は必ず勝つ。負けたって何度でも挑んで絶対に勝つから」

「名前らしい答えだね。その目もその意志も、ずっとまっすぐなままでいて。俺はそういう名前が好きだから。…雷門が俺達に勝つ見込みがなければ俺が名前を迎えに来るよ」

にっこりと笑っていた笑顔を消して、切なそうに目を伏せたヒロト君はそっと私の額にキスをして耳元で告げる。

「もし雷門が俺達に勝った時は、名前が迎えに来てね」

「…そう出来るように頑張る。全力で行くよ、ヒロト君」

そんな約束を交わした私達は行き場のない手を繋ぎ合わせた。絶対に、迎えになんか来させない。


行き場のない約束

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