例えばボールをどんな状況でも楽しそうに追いかける姿とか。絶対的な力量の差があるのは理解しているはずなのにそれでも楽しそうに笑っている姿とか。

いつの間にか俺の目はあいつを追っていて前からそんな自分の行動を不思議に思っていた。あいつを見る必要はないはずなのにどうして追いかけてしまうんだろうか。心の中でいろいろと考えていれば目の前にはその張本人の姿。

「何か考え事でもしてるの?」

「いや、何でもないさ」

はぐらかすように答えれば少し間をおいてそっか、と素っ気ない声が返ってきた。リフティングをしながら俺の表情を見ている苗字は遠くから円堂に呼ばれた。今思い出したというような様子でああ、私抜け出してきたんだった!と慌てる苗字。俺のほうに振りかえった苗字はボールを手渡して微笑んだ。

「風丸も早く来てね。先行ってるから!」

そう言った空地は円堂のいる場所まで走り出そうとする。ただ俺の手が自然に伸びて苗字が行かないように裾を握りしめていたのには正直俺自身驚いた。

「何かあるの、風丸?」

「あ、のさ空地」

どうしてこんなことをしているのかと後悔しつつとっさに出た言葉はあまりにも馬鹿らしいような気がした。

「名前で呼んでもいいか?」

少しの間、キョトンとした様子を見せた苗字はすぐに笑顔を浮かべてもちろんと大きく頷いてくれた。むしろそのほうが嬉しいんだよね、と続く苗字の言葉。はぐらかす為に言った言葉なのに何だかラッキーかもしれないななんて思いながらいつの間にか俺も笑っていたみたいだ。


幸せの口実

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テーマ「人外ファンタジー」
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