「早く私をみんなのところに帰してくれないかな、グラン」

壁と背中合わせになった私は目の前で笑みを浮かべているグランに棘のある言葉を投げかける。それにも動じた様子のないグランを見た私は大きく溜息を吐く。追い込まれた私はただグランを見るしか出来なかった。

「今はヒロトだよ、名前」

「馴れ馴れしい。呼び捨てに出来るほど私達は親しかったかな、基山」

わざとらしく名字で呼べば少しだけ顔を歪めるグランもといヒロト君。一時的なものに過ぎないけれど小さな優越感が込み上げる。

私も彼が好きだけど立場上、そうも言えないのが現状であまりにも酷だ。言えるもんなら言ってやりたいけれどそれは雷門のみんなに申し訳ないと思うから絶対言わない。裏切りに匹敵するから。

だから敢えて嫌われそうな言葉を選んで口にするのにそれを知らない君はといえば。

「そんなこと言うなら口、塞いであげようか?」

「ふざけないで!私は、っ」

そう、私は言えない。君に言ってあげたい言葉なんて言うことさえも叶わない。仕方がないでしょう、立場が違う。本当に正反対の位置だから。抵抗するも空しく感じる。絶対的な力の差に勝つ事の出来なかった私は唇を塞がれた。

言えたらこんな苦労しないんだよ、ねぇ君なら分かるでしょ?そんな事を思っているとそっと唇が離されて額に触れるだけのキスを落とされる。

耳元でまたね、と手短に囁いたヒロト君はすぐに姿を消してしまった。その場に力なくへたり込んだ私は熱を帯びた唇を押さえながら誰もいない路地で小さく呟くのだった。

「ヒロト君は知らないんだよ」

気持ちが矛盾してるなんて分かり切った事。いっそのことなら嫌いになってくれたほうが幸せだ。そんな自分に嫌気がさして心底おかしく思えた私は誰もいない路地で勝手に頬を赤く染め上げる。

「私も相当なバカだ…」


矛盾だらけ

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テーマ「人外ファンタジー」
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