※身体感覚の鈍いヒロインと鬼道君のお話 「おい苗字、手を見せろ」 「何いきなり…どうしたの鬼道?」 部員みんなのシュート練習に付き合って休憩にと一息ついていると鬼道がいきなりそんな事を言ってこちらへ向かってきた。間の抜けた返答をした私はペットボトルを掴んだまま佇んでしまう。勢いよく手を掴まれてペットボトルは落下。鬼道はお構いなしといった様子でグローブをするりと取った。 「嘘、こんなに酷かったんだ、傷」 「やっぱりな。ちゃんと手当てしろって言っただろう?」 確かにヒリヒリとした痛みを感じてはいたもののここまで酷かったとは。ようするに私のヒリヒリはみんなにとって激痛ってことか。覚えておかないと確実に体壊すな。手にはマメが出来ていたり皮膚が剥けて血が滲んでいたりと見れば痛々しい光景。本気でみんながシュートを打ってくるから夢中になって気がつかなかったんだろう。 「いいよ鬼道、自分でやるから」 「俺がやる」 「そっか、ありがとう」 鬼道はやるって言ったら聞かないだろうな、有無なんて言わせてくれないだろう。そう思った私は素直にやってもらう事にした。鬼道の手が私の手に触れる。触れた部分がほんのりと熱を帯びたような気がした。なんだか少しだけ恥ずかしいような気がする。あれ、どうしてだろう。 「終わったぞ、苗字」 「…あ、ありがとう鬼道。さてと…もうひと踏ん張りしてみるかなぁ」 グローブをしっかり手につけて部室を後にしようとすると鬼道の声に呼び止められる。どうかしたのかと思い振り返ってみれば鬼道はすれ違いざまに私の頭を軽く撫でた。 「あまり張り切り過ぎるなよ。お前はよく無茶をするからな」 そう言った鬼道の声があまりにも優しくて私はそのまま硬直してしまう。鬼道の姿が見えなくなった頃、私は撫でられた頭にそっと触れて思ったのだった。 わかった、恋したんだきっと! 一歩だけの前進 |