私はただ、求めていただけだった。
刺激も何もない平凡な生活こそが一番いいのではないかと今更思い更ける。
普通に勉強して、それなりにいい成績を修め、それなりに真面目に過ごした結果何の壁にぶち当たるでもなくここまで生きてこれた。
一番良かったんだと、また思う。

それでも求めた。私の生活に何か刺激が欲しい。退屈な日々を過ごすのには飽きた。
その考えが今の行為に至るまでの理由。

いつからか、その行為に痛みしか感じなくなってしまっていた。喘ぐ自分自身に吐き気さえ覚えてしまうようになっていた。
今更戻る事も出来ずに、何度も繰り返す。何かの薬物でも使ったのではないかと思うくらい、気付いた頃には抜け出すことなどできなくなっていた。

あまりの痛みに保健室のベッドに寝そべる私を第三者の観点から見たら何と思うのだろうか。
見ても何とも思わないだろう。それは私がどうして痛いのかを知らないから。

「…いい加減、やめたらどうっスか」
「財前くんも、サボるのやめたらどうなの?」

締めきっていたカーテンが開けられて日差しが入り込んできた。
逆光なのか財前くんの表情はあまり見えない。君は今どう思って私を見ているんですか。唯一、私が痛い理由を知ってる君は。

「泣かんといて…苗字さん」

財前くんの口から漏れたその言葉で頬を伝う冷たさに気が付いた。
いつも仏頂面で、先輩に対しても生意気で愛想のない財前くんが悲しむように顔を歪めていた。
私が求めていたのは何だっけ。私は何がしたかったんだっけ。今更自問自答しても答えは出ない。出せないのだ。

「ざいぜ、ん、くん、あのね」
「……何スか」
「わたし、本当はもうやめたいの。でもね、やめたくても、やめられないの」

どうしたらいいのか、わからないの。何が欲しいのかわからないの。
しゃくりあげる私を包んだ温かさは財前くんのものだった。財前くんのシャツを私の汚くて薄っぺらい涙でぐしゃぐしゃにしてしまった。

「俺だけに、すればええんやないですか。俺だけの事を見て、感じればええんやないですか」

誰か一人を愛すればいいと彼は言った。私はそれに返答しなかった。財前くんの手のひらが私をそっと撫でていく。
割れものを扱うみたいに優しい手つきだった。久しぶりの"愛されてる"感覚だった。
痛くない。満たされる胸の熱さとよくわからない感情に涙が出た。

「好き、や…っ、名前さんが、好き」
「…ざいぜんくん、ざいぜんくん、わたしも、好き」

私は誰かに愛を、求めてたんだと今更気付く。
彼の温もりが私の求めてたものだったのだ。

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