※侑士がプレイボーイ


そんなベタな事があんのかと、私は冷静に状況を判断していた。
絶えず聞こえるのは女の人の喘ぎ声と息遣いと、音。今現在いる場所は保健室、つまり学校内だ。

今時保健室で事に及ぶってどうなんだ、そこらへん。
頭が痛くて純粋に休ませてもらっている休養者(つまりあたし)に迷惑だとは思わねーのか。
頭痛に対して寝られないというこの状況に心底腹立つ。あーうぜー、マジうぜぇ。

「……ちっ、」

あまりにも腹が立ったので思いっきり舌打ちしてやった。
それも隣から聞こえる音と声にかき消された。うぜぇと心から思う。
ぎしぎし音を立てるスプリングのベッドがやけにうっとおしい。

「っ、あ、ぁん、」

……っ、だぁあああああああああ!!寝るに寝られん!!
頭の痛さがピークに達して動きたくないというのに。…屋上にでも行こう。
こりゃ我慢して固いコンクリートの上で寝るしかないか。寝ないよりマシだ。
あたしは寝ていたベッドのカーテンを勢いよく開ける。
窓から入り込んだ隙間風があたしの隣のベッドのカーテンをゆらゆらと揺さぶって、見えた。
薄々感づいてはいた。ああ、やっぱりお前かよ。

忍足侑士。



「こんなとこで何しとるん?」

大層優しい声色で話しかけられ、頬にひやりと冷たい缶ジュースが当てられた。
こんなところにいる理由なんて知ってるくせに。お前のせいだっての。
あたしは忍足の存在を完全に無視して起きる。さすがに固いコンクリートの上で寝た所為か、体の節々が痛かった。

「少しは反応したってな、苗字」
「うっせー、お前のせいで睡眠妨害されたんだよバカ謝れや」
「その詫びにミルクティー買うてきたんやで」
「その程度で許せるほど優しかねぇよ」
「相変わらず愛想ないやっちゃな」

誰のせいでこの気だるい体で屋上まで行く羽目になったんだか。睨みつけても忍足は動じない。
ポーカーフェイス野郎め。外見すごくかっこいいけど性格は最低。女たらし。
とっかえひっかえしていろんなタイプの女の子手中に収めやがって。

「忍足は誰か一人に絞んないのか?」
「唐突に何言うかと思えばそないなことかい」
「あと保健室でやるな、迷惑。こちとら頭痛くてしゃーない」
「…質問の答えやけど、俺には無理や。"好き"とかよおわからへん」
あっそ。大して興味ないんでそのままスルーしてやった。お前はおらんのかって聞かれたけどいないと即答で答える。

「なら俺がなってやろか?」

不意打ちで、耳元で囁かれる忍足の低い声に、ぞくりとした。
忍足の言った言葉の意味を噛み締めるように確認した後、あたしは忍足の襟首を掴んで睨む。

「お前みたいな女慣れした奴、興味ないな」
「強情な姫さんやんなあ」

にやにやと笑いながら忍足はこちらを見る。その目は何を考え、何を思っているのだろう。
読めない。こいつの考えなど常人には理解出来ぬ域なんだろう。
忍足の親指があたしのくちびるをゆっくりと撫でながら、私の耳に囁く。

「心配せぇへんでも…惚れさせたる」

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