その人はとてつもなくうるさくて、女らしさの欠片もないような人だ。 俺の理想は清楚な女。全く対極にいるその人は何故かは知らないがよく俺についてくる。 今日だってそうだ。いつも通り木の上に登り、胡坐をかきながらテニス部の様子を、というより俺の練習風景を眺めていた。 苗字先輩はよく分からない奴だと改めて思う。 「あ、日吉じゃん」 「………」 「日吉?ねぇ気付いてるなら反応してよ、ひーよーしー?」 「…俺、練習中ですよ、苗字先輩」 「そりゃ分かってるに決まってんじゃん!だって今日も」 日吉の様子見に来たんだもんさ。 ニカッと笑顔を浮かべた彼女は結構な高さのある木から飛び降りる。 俺はただその様子を眺めていた。もしもに備える必要などない。野生児並の身軽さだからだ。 「もしもの時に備えて受け止める準備とかしてくれないのー?女なんだけど!」 「俺がフォローに入ったらかえって危険じゃないですか」 「あ、そっか。降りにくいな…」 「相変わらず頭回らないんですね」 「先輩に向かって酷ぇ口の聞き方!日吉生意気!」 そんなあんたも大概口調悪いですね。思った言葉だったが口に出さずに留めておいた。 ブーイングをしている彼女を放って、俺はコートに戻ろうと踵を返す。 不意にジャージの裾を引っ張られて俺は足を止めた。引っ張る主など苗字先輩しかいない。俺はひとつ溜息をついて何か、と問う。 「聞きたい事あんだけど、いい?」 「何ですか、改まって」 「あたしが女らしくなったら日吉はどうする?引く?」 何を唐突に、何の前触れもなくそんな事を俺に聞くんだろう。軽い冗談で尋ねたのだろうか。不明確だ。 この人が清楚になったと。…想像することさえままならない。 「どうしてそんな事を俺に尋ねるんですか?」 「え、だって」 何事もないように先輩はさらりと次の言葉を口にした。 「あたし日吉が好きな清楚なタイプじゃないから」 |