「さーむーいー」

冷え切った真冬の部室。その片隅に身を縮ませた名前がぶるぶると震えていた。
時折手を何回も素早くこすってはぁーっと息を吐く。

「なんや寒いなら膝掛け持ってくればよかったやん」
「今日に限って忘れちゃったんだよ…」
「ホンマ抜けとるな、自分」
「白石の涼しげな顔見るとますます寒くなるわ」

別にバカにしたわけやないんやけど、皮肉返されてしもた。
苦笑しながら着替えを終えると同時に名前がくしゃみした。
正直、名前のくしゃみはオヤジ臭いんちゃうか思うてたんやけど予想は覆された。
……なんやねん、さっきの!「へっ、くちゅん!」てなんやねん!
俺は名前のことやから「ぶえっくしょぉおおいっ!!」とか想像しとったんやで!?

「……どしたの、なんでそんな」

真っ赤になってんの。
硬直しとる俺に向かって鼻をすすりながら名前が問いかけてきた。
一点に熱が集まるような感覚。ああ、俺今タコみたいにめっちゃ顔真っ赤なんやろな。

「…何でもあらへんよ」
「如何わしい事でも考えてたんじゃないのー?」

きゃー、白石くんてばムッツリ、とかなんとかニヤニヤしながら名前が言うた。
うっさいねんと言っても名前には通用せえへん。
「うー…へっ、くし!」またくしゃみしとる。ああ、もうあかん。
これ以上やられてもうたらいろいろぶっ飛びそうや。

「わっ、白石のジャージあったかい!」
「それ着てれば少しはマシやろ」
「かなりマシ!…はぁ、白石の匂い落ち着くー」
「な、っに、言ってんねん」
「何って純粋に思ったことだよ」

ぶかぶかのジャージ着たままヘラヘラ笑っとる名前にぶっ飛んだ。
冷静でいろっちゅーのがまず無理な話や。俺は無言で名前を抱きかかえる。

「おー、温めてくれんの?」
「……そういうことにしといてや…」

温める事を口実に抱きしめると体温がわずかに伝わって温かかった。
ぶっ飛びそうな理性を押し留めるのに必死で心臓うっさいねん。絶対名前に聞こえとるやろ。

「白石の心臓、ばくばくしてる」
「…ホンマ対処しきれんわ」

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