居場所などとうの昔からなかった。理解していたはずなのに私は縋る。
一人になりたくないと縋りつくことしかできない私は滑稽なんでしょう。もはや泣く事も叶わない。

世界の色が褪せていく。ひとつひとつ、色を失っていく。
灰色に淀んだこの世界は酷く居心地が悪かった。
唯一色を失う事のなかった色が、ひとつだけあった。

"赤"だった。手首に存在するその線から溢れる"赤"は特に。
その手首に何度刃物を滑らせてきたのだろうか。その度に自分の生を感じ、打ちひしがれる。


「何してんっスか」

絶望しか感じない世の中に、赤色だけ映えた。
淀んでしまった世界に映る財前くんの存在。耳についている赤いピアスだけが色づいていた。
私なんかとは対極にいる存在。きらきらしてて、遠い存在。
同じクラスの白石くんや忍足くん達と一緒に居ても引けを取らない人。

きっと白石くんに用事があってきたんじゃないかと私は自己完結させた。
財前くんは何も言わない。私も何も言わない。
彼は見てしまったのだ。私の手首に走るライン。生々しい痕。

「……なんでそんなこと」
「私に居場所がないから」
「自分の体、もうちょい大切にしたほうがええっスよ」
「財前くんには関係ないよ」
「そんなんしても引き摺るだけやないですか」

どうして私に話しかけるの。構う理由なんてないはずなのに。
財前くんが私の手首を掴んだ。突然の動作に私は身を強張らせる。
何もできずにいるといつの間にか私の手首にはいつも財前くんがつけてるリストバンドがはめられていた。
これは男子テニス部がつけているもののはず。そんなものをどうして。

「……先輩がちゃんと前向きになれるように、願掛けっス」
「願掛け?」
「つらいこと、それで隠して下さい」
「…あんまり関わった事のない人間に、どうしてそんなに親身になれるの?」

私の問いかけに財前くんが答える事はなかった。
ただ、いつも仏頂面のはずの彼が少しだけ笑っていた。
リストバンドの色が、私の世界に戻っていくような気がした。

(なぁ白石、財前どこにおるん?)
(ヒーローになりにいったで)
(……アホか)

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