最初から見当の付いている事だった。所詮、私がまだ子供ってこともギーマさんが大人だってことももちろん理解していた。 ワインの匂いが充満している。ビールのようなお酒の匂いはどうしても好きにはなれなかったけど、ワインの匂いは割と平気だった。多分それは慣れなんだと思う。大好きな人がいつも口にしているものの匂いだからかもしれない。 うっすらと明かりのついた部屋に入れば、その部屋のテーブルには既に一本、空の瓶が置かれていて、部屋の持ち主の姿はない。継ぎ足しのものを取りに行ったのだろうと立ち尽くしていれば肩を叩かれた。振り返れば案の定、片手にワイン瓶を持ったギーマさんの姿だった。 「ギーマさんって余裕でボトル空けますよね、さすがに飲みすぎだと思います」 やけ酒ですか、なんて皮肉めいた言葉を口にしてソファーに失礼させてもらう。「それもそうかもね」私の隣に腰掛けて、ワインのコルクを外すギーマさんの口から返ってきた答えに私は唖然とした。やけ酒なんて冗談半分で言ったのに。 「試しに一口どう?」 「まだ未成年ですから遠慮しておきます」 「あ、そっか。まだ『子供』だもんね」 少しだけ笑みを浮かべたギーマさんはグラスに少し注いではそれを口にする。子供だもんね。ギーマさんのその言葉で、私がどれほど悔しい思いをしているのか知ってるのか。いつだって気に止めてもらえはしない、いつだって、いつだって。 ワインを口に含んだギーマさんの襟を思い切り掴んで引っ張った。がちり、と少し鈍い音がする。口内に捻じ込んだ舌先からアルコールの味が伝わって数秒。私は彼の口から離れた。 「っ、試させて、もらいました」 アルコールの味がきつい。ほのかにブドウの味がしたけど、あまり好ましい味とは思えない。そういうところも含めて、私はまだ子供なんだろう。やり返すどころか逆に虚しくなった。 「バカだなぁ」 くすくすとギーマさんの笑い声が耳に届いて、私の頬に手が伸びる。突然の事に驚いて肩を揺らした。触れた指先が熱い。耳元で囁かれる言葉にさえ、熱がこもっているような気がした。 「大人になるまで、もう少し我慢してて」 |